いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第140回

日々の生活の質をいかに高めるか
【生活の質の考察】152-156

「仙台育英高校の優勝と監督」

前回のこの項では、朝日新聞「看取り士」と「オンラインに参加しますか?」の記事ついて内容を紹介すると共に、私の考えを述べましたが、今回は、今年(2022年)全国高校野球選手権大会で栄冠を勝ち取った仙台育英高校、特に監督の感動的優勝インタビューを取り上げました。

Ⅳ-152 仙台育英の優勝

 今年の第104回全国高校野球選手権大会で宮城県の仙台育英高校が優勝し、「東北勢初の優勝」、「遂に深紅の優勝旗が白河の関を超えた」などと大々的に報じられました。その優勝を果たした直後、甲子園の観客前でインタビューに応じた仙台育英監督の発言内容が、多くの人々に感銘を与えました。私自身もその中の一人で大きな感動を頂きました。その内容を改めて取り上げ、紹介します。
 今回の仙台育英の優勝まで、103回の長い戦いの中で東北勢は9回の決勝を戦っています。仙台育英も過去2回挑戦しましたが、準優勝となって頂点に達することは出来ませんでした。春の選抜大会を含めると12回の決勝戦(仙台育英も春に一度。残念ながら東北6県中、我が山形県の最高はベスト4)を経験してきたのでした。この間、優勝旗は東北を飛び越え、航空機で北海道に渡ったこともあり、正確には「陸路での白河の関越え」が待たれていました。
 さて。今回優勝のベンチ入り18人中、16人が東北地方の中学出身(我が山形県からは3人)であり、仙台・宮城の高校であっても出身を見ると見方によっては東北を代表する高校とも言えるのかも知れません。

Ⅳ-153 白河の関を超えた

 我が家は野球好きの家族です。私も故人の父親にならい、大好きです。昔から「白河の関」の話を父親から聞かされていました。私の長男は小学~大学そして社会人になっても野球と関わりを持ち、その孫二人も野球少年です。心からお祝いしたい思いでいっぱいです。
 東北人にとって今回の優勝の想いを、翌日のテレビ朝日系の「羽鳥モーニングショウ」で、解説者の玉川徹氏(宮城県出身)が、次のように語っていました。ある意味東北人の心を代表している想いでもあり、紹介することにします。
 「(優勝は)嬉しいのは嬉しいんだけど。嬉しいんでは軽いんです。(もっと)重いんです。子供の頃から優勝旗が白河の関を超えていないということを大人から言われるんです。東北選抜(のメンバー)で勝ったということで、宮城県人として嬉しいというよりも東北人として嬉しいを越えた何か、想いがある」と。
 更に、24日のテレビで、メンバーが凱旋帰郷の途中(23日)、新幹線の中で「ただいま、白河の関を超えました!」との放送。正に陸路で越えた瞬間を伝えたものでした。

Ⅳ-154 監督・須江航氏の優勝インタビュー①

 このような背景を持って100年来の悲願を達成した仙台育英監督・須江航(スエワタル)氏は優勝インタビューで、涙を流しながら次のように話したのです。アナウンサーの「初優勝おめでとうございます」に対して、冒頭で「宮城の皆さん、東北の皆さん、おめでとうございます!」との発言に先ず驚いてしまいました。通常は「有り難うございます!大変うれしいです。長い苦しい練習が報われました」又は、「県民の皆さんのご支援で・・・」あるいは「宮城県の皆さん有り難う!」といった発言が普通かと思うのですが、いきなり「宮城の皆さん」に続けて「東北の皆さん」そして「有り難うございます」ではなく、「おめでとうございます」とお祝いの言葉を宮城をはじめとする東北6県全体に述べたのでした。この謙虚さと東北人の「白河の関」の想いが私自身はもとより、多くの方々に感動を与えたのです。

Ⅳ-155 監督・須江航氏の優勝インタビュー②

 続いて
「ゲームセットの瞬間、少し目元を押さえていらっしゃいました。どんな思いですか?」
「100年開かなかった扉が開いたので、多くの人の顔が浮かびました」
「宮城の皆さん、東北の皆さんの夢、かないましたね」
「準決勝で勝った段階で、本当に東北や宮城の皆さんからたくさんのメッセージをいただいて、本当に熱い思いを感じていたので、それに応えられて何よりです」
「強力な投手陣5人を擁して、この甲子園でも継投で優勝までに至りました。その辺りいかがですか?」
「今日は本当に斎藤(蓉)がよく投げてくれて、でも県大会は投げられない中で、本当にみんなでつないできて、つないできて、最後に投げた高橋(煌稀)もそして今日投げなかった3人のピッチャーも、スタンドにいる控えのピッチャーも、みんながつないだ継投だと思います」
「今年の3年生は入学した時から新型コロナウイルスの感染に翻弄されてきました。それを乗り越えてのこの優勝、3年生たちにはどんな言葉をかけたいですか?」
「入学どころか、おそらく中学校の卒業式もちゃんとできなくて、高校生活っていうのは何て言うか、僕たち大人が過ごしてきた高校生活とは全く違うんですね。青春ってすごく密なので。でも、そういうことは全部駄目だ、駄目だと言われて、活動をしていてもどこかでストップがかかって、どこかでいつも止まってしまうような苦しい中で、でも本当に諦めないでやってくれたこと。でも、それをさせてくれたのは僕たちだけじゃなくて、やっぱり全国の高校生のみんなが、本当によくやってくれて、例えば、今日の下関国際さんもそうですけど、大阪桐蔭さんとか、そういう目標になるチームがあったから、どんな時でも諦めないで、暗い中でも走っていけたので、本当に全ての高校生の努力のたまものが、ただただ最後、僕たちがここに立ったというだけなので、ぜひ全国の高校生に拍手してもらえたらなと思います」

 穏やかな口調で淡々と述べられたのでした。演説調でないため、なおのこと心に響きました。

Ⅳ-156 監督・須江航氏の人間性に感動

 皆さん、感銘感動せずにはいられませんよネ。このような考え方、生き方が出来る須江監督とは、どのような方なのでしょうか。新聞記事などからその素顔に迫りたいと思います。優勝の翌日、2022年8月23日付朝日新聞によると、須江監督は埼玉県出身の39歳。「県外で勝負しようと仙台育英に入ったが、レベルは高く、ずっと控え選手。在学中に学生コーチに転向した。そのときのリーダーシップが評価され、大学卒業後の2006年系列の秀光中軟式野球部の監督に就任。14年に全国優勝。17年に母校・仙台育英の監督に就任。選手時代『メンバー入りするために何が足りないのか』と悩み続けた。だからこそ今の実力や目標値を丁寧に説明する。その上で『誰にでもチャンスを与えたい』と紅白戦を繰り返し、結果をもとにメンバーを選ぶ」、「宮城大会準決勝で対戦予定だった仙台南が部員の感染判明で辞退。『一緒に戦いたい』と、同校のチームカラーであるオレンジの時計を甲子園で身につけてきた」と。
 野球に対する取り組み方、部員への目標設定、ベンチ入り部員の明快な選考過程、5人の投手を擁立したチーム作り等々はご自身の経験から組み立てたたものと思われます。しかしインタビューに見られる氏の謙虚さはどこから来るのでしょうか、大変失礼ながら39歳の若き監督です。繰り返しますが、優勝インタビューで「初優勝おめでとうございます」に対して「宮城の皆さん、東北の皆さん、おめでとうございます!」なのです。監督の前に教員として、教員の前に人として極めて立派で魅力あふれる方です。私自身本当に感銘、感動そして人としてのあり方を教えて頂きました。有り難うございました。

 「青春ってすごく密-」に代表される須江監督のインタビュー発言について、その意味合いを解説したネット記事がありましたので紹介します。
 「青春ってすごく密-」。第104回高校野球選手権で優勝した仙台育英(宮城)の須江航監督(39)が発した言葉を、国語辞典編纂(へんさん)者の飯間浩明氏(54)が分析した。
 須江監督は優勝インタビューで、コロナ禍を過ごしてきた選手たちを思い「青春ってすごく密なので」という印象的な言葉を残した。これについて飯間氏は「『青春ってすごく密なので』は、選手たちをずっと見てきた経験から出た実感のこもった言葉だと感服しました。高校生たちの時間は非常に凝縮されていて、勉強も練習も含め、1日の中で記憶に残る一瞬が何度も訪れると思います。そのことを『青春ってすごく密』と短く表現できるのは優れた言語感覚です」と解釈した。