いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第128回

緩和ケア医療に学ぶ生と死
【生と死の考察】136-141

「入院生活と治療」

前回のこの項では、檀家さんの中で印象に残る方の死についての考えを一時中断し、急遽私自身の入院について述べました。今回はその2回目です。

Ⅱ-136 入院生活と治療 ④

グランドキャニオン

 入院4日目(月曜日)です。下血は昨日の朝の少量1回だけでその後はありません。但し相変わらずお腹の重苦しさと膨満感は続きます。治療はやはり24時間点滴と安静のみです。しかしこの日からは食事の第一歩となる(それを期待しています!)栄養補助品が出ました。お昼と夕方に出たのです。それは粉末清涼飲料ですが、お湯で溶かして飲む「GFO(ジー・エフ・オー)」というもので、簡単に言えば粉末ジュースの素のようなもので、僅か15グラムです。その袋には「腸に3つの栄養素」とありました。水分以外のものを摂るのは三日ぶりでしたのでやや甘い「汁」を美味しくゆっくり飲んだのです。さて、国内は新型コロナ禍の真っ只中、11都府県にコロナ緊急事態宣言が発令されていました。幸い山形には発令が出ていませんが、その山形にあっても特に医療機関や老人関係施設にあっては厳しい感染対策がとられています。
 私が入院した山形県立中央病院(県中)は感染病対策の基幹病院として、県内で最も多くの専門病床を確保し、感染された患者さんの入院は県内でダントツの病院です。したがって平常時には無い厳しい院内対策がとられていました。先に述べたように同伴した妻は病室に入られず、病棟の入り口で「今生の別れ」をしたのも、その対策の一環です。毎日、朝と夕方に全館院内放送があります。内容は、①家族も病棟への立ち入りは原則禁止 ②入院患者への荷物などの持ち込みは、1階受付に手渡し、職員が患者に渡すこと ③院内はマスク着用 ④手の消毒励行、が放送されます。おそらく全国の病院に共通した対策と思われますが、放送の度にコロナを意識したものでした。

Ⅱ-137 入院生活と治療 ⑤

 入院5日目(火曜日)です。ついに食事らしいものが出ました!朝食は、おもゆ、みそスープ、GFOの三品でした。熱々に近く重湯と味噌汁の蓋を開けるのに一苦労したほどです。久しぶりの食事、やはり旨い!の一言です。味噌汁も味わって味わって‥旨いうまい!の連発でした。しかし余り早食いでは胃腸に悪いのではとの思いが横切り、時間をかけていただきました。お昼はおもゆ、すまし汁、プリン、牛乳100㏄、ヤクルト65㏄と朝より一品増え5品でした。朝のGFOに替わって出て来たプリンと牛乳、やはりこちらの方が口に合うなぁ‥の実感でした。夕方はおもゆ、コーンポタージュ、ぶどうくず湯、ムース、牛乳100㏄でした。
 それにしても病院の食事は暖かく美味くなりました。久しぶりに口にした食事、重湯と味噌汁が暖かく美味しい!との実感です。院内食事に詳しいわけではありませんが、昔、名古屋に居た時代は冷やご飯と・冷めた味噌汁‥、食事の時間も朝遅く、夕食は5時前、もしくは4時過ぎ。職員の帰宅時間に合わせた時間でした。余りに早い夕食に一部の患者さんはその後自分で食べ物を用意したほどでした。
 県中の食事時間は、朝7時50分頃、昼11時50分頃、夕17時50頃の予定との説明でしたが、ほぼ予定時間どおりに配膳されました。又、お膳を下げに食事運搬車に行ったのですが、その運搬車が一段と進歩しているのには驚きました。中は加熱式になっているのです。これによって食事が冷めないばかりか、暖めながら病棟まで移動して来るのです。逆に同じ運搬車に冷却用もあるのです。加えてお膳の構造と一体の作りで、お膳を納めるとそのままで動かないようになっているのです。昔は、それなりにお膳が動き、カチャカチャとした音が出て、「あっ、食事が来た」と分かったものですが。患者中心の医療がここにもありました。
 日中、点滴の補充と点検に看護師さんが来室、スタンドの点滴を見て直ぐ私の腕を、「アッ、漏れてます」と。見ると針刺しの先の腕が見事に腫れているのです。自分では全く気付きませんでした。以前、何かで点滴を受けたことがあり、漏れた時はそれなりの痛みがあったことを覚えていますが、今回は全く気付かなかったのです。感覚と痛覚の鈍さは高齢から来るものなのでしょうか。自覚自覚‥‥。そしてこの日の夜遅く、とうとう24時間点滴から解放されました。食事が順調に進んだ証でしょうか。

Ⅱ-138 入院生活と治療 ⑥

 入院6日目(水曜日)です。朝の目覚めから点滴の“ツナ”に解放されて自由と解放感にひたりました。飼い犬が綱を解き放されたような感じなのでしょうか。明日、最後になるもう一本の点滴があるとのことでしたが、先ずは解放気分にひたったのでした。
 食事は、朝食「潰瘍3分粥食」として3分粥200グラム、味噌スープ、豆腐みそかけ、Pジュースアップル100㏄、ヨーグルトでした。ペロリです。昨日まではご飯が見えない重湯でしたが、少しは食べ甲斐のあるご飯でした。昼は、3分粥200グラム、すましスープ、和風トロット卵とじ、牛乳100㏄、ゼリー青の5品でした。夕方は3分粥食200グラム、ニンジンポタージュ、洋風茶碗蒸、おろし桃80グラム、りんごくず湯、牛乳100㏄でこれまでより一品増えて5品でした。すこしづづ日常食に近づいていく実感です。
 そして、今朝便が出て、下血は無かったのです。日曜日の朝、血便が出て以来、通じは全くありませんでしたが、3日ぶりに健康的な便が、少量でしたが出たのです。併せて血便が無かったことに心から安堵したのでした。毎日、何度も「お通じは?」「排便は」と尋ね、気遣ってくれていた看護師さん達も心から喜んでくれました。そして回診時、主治医の先生に報告したところ「順調ですネ、土曜日をメドに退院を考えましょう」と。退院のメドが立ったのです。先ずは良かった!

Ⅱ-139 入院生活と治療 ⑦

 入院7日目(木曜日)です。
 朝食は、5分粥300グラム、みそスープ、卵とじ、幼ブロ添、のり佃煮少々、Pジュースアップル100㏄、ヨーグルト、おやつ(ビスケット)の7品で、昨日より又一品増えました。昼は、5分粥300グラム、すましスープ、紅葉蒸、ごま和え準軟菜、たいみそ、牛乳100㏄、Caゼリーピーチの7品。夕方は5分粥、パンプキンポタージュ、すき焼き風煮幼みそマヨかけ準、おろし桃80グラム、牛乳100㏄でした。明日はもう少しご飯らしいものかなぁ?
 今朝、排便がありました。姿形と薄茶色の便で良好、下血もありません。ところが10時半頃お腹が渋りだし少量の下痢便が出たのです。おそるおそる便器を見たのですが幸いにも下血は全くなく、ホットしました。
 このような容体から先生は「しぶりは今回の病気と言うよりこれまでの憩室の関係と思われます。土曜日に退院にしましょう」と退院の決定が出ました。昨日は「土曜日をメドに」という内容でしたが、一歩も二歩も前進したことになります。
 今日は又、正式に点滴無しとなり、腕にあった点滴のなごりである針もぬき取って貰いました。これでお風呂もシャワーも自由自在です。このようなわけで、日中の殆どはパソコンの打ち込みと少しの時間をテレビという一日を送ることが出来ました。明日も同じような一日になるかなぁ

Ⅱ-140 入院生活と治療 ⑧

 入院8日目(金)、退院予定日の前日です。いつものように食事の紹介です。朝食は潰瘍全粥食として、全粥220グラム、みそ汁(大根千切り)、挽肉包 Pショウユ、浸し 準、のり佃煮、ヨーグルト、おやつバニラウエハースの7品でした。昼は全粥220グラム、えび・団子炊合せ 準、たいみそ、バナナ三分の一程度、牛乳100㏄、しっとり蒸しケーキ黒糖の7品です。初めて果物のがそのままの形で出ました。夕方は全粥220グラム、みそ汁(大根の千切り)、カレイ トマトソース7 煮浸し 準50 里芋含め煮柔、果物缶詰 ナシの6品でした。
 食事の進化について述べてきましたが、その他にも気付いた進化は沢山ありました。救命外来で腕に紙製の名前とバーコードの着いたリストバンド、病棟に入って紙製からビニール製に取り換えです。よく見ると名前、生年月日、性別、診察券ナンバー、そしてバーコードが着いていました。このリストバンドを点滴の追加などことあるごとに読み取り機でチェックしています。又、看護師さんは台車にパソコンを載せ、比較的軽装で病室を回ります。昔はカルテを山積みにして回ったものですがすっかり様変わりです。
 様変わりは他にもありました。入院して看護師さんから「タルイシさんは大丈夫と思いますが、高齢者ですので、院内ルールのためせん妄について説明させて頂きます」として「入院すると『せん妄』を起こすことがあります」と「せん妄ハイリスクチェックリスト」という説明文書を頂きました。その内容をチェックリストによって紹介します。

1.せん妄のリスク因子の確認(該当する項目にチェック)
 □70歳以上
 □脳器質的障碍
 □認知症
 □お酒を飲む習慣がある(休肝日がない)
 □せん妄の既往
 □リスクとなる薬剤の使用(睡眠薬・抗不安薬・医療用麻薬・H2ブロッカーなど)
 □全身麻酔を要する手術又は、その予定がある

2.ハイリスク患者に対するせん妄対策
 上記、せん妄のリスク因子項目に1つでも該当する場合は、以下のケアを行い「せん妄予防」と「せん妄の早期発見」努めてまいります。
 □認知機能に対して介入させて頂きます(カレンダーや時計の活用、わかりやすい説明)
 □脱水の治療・予防として、「点滴をおこなうか、または水分補給をしてもらいます」
 □お薬(睡眠薬・抗不安薬など)の見直しをおこないます
 □ベッドから離れる時間をつくります(歩行訓練や立つ練習、座る時間をつくります)
 □痛みの程度をみながら、早期に対応させていただきます
 □せん妄に関する情報提供をおこないます

 私は上記「1」の項目で70歳以上であり、お酒も飲みますので、2項目該当しましたが、お陰様で「2」の項目について具体的な指導はありませんでした。考えてみますと多くの高齢者が入院する病院としては、「せん妄対策」は欠くことの出来ないことであると思い、病院の対応に納得です。
 振り返ってみますと私が現職の、それも昭和の時代にあっては、高齢者が3ヶ月ほどの入院(今の入院は短期ですが、当時は2~3ヶ月の入院は珍しくありませんでした)で、歩くことが出来ず、ベッドオンリーの患者さんにせん妄や認知機能の低下がよく見られたものです。ただし、歩行できるようになったり、自宅療養になると改善されのも垣間見てきました。あのときから何十年経った現在、高齢社会が一気に進みました。病院としてこのような対応をしている時代を実感したのです。

Ⅱ-141 入院生活と治療 ⑨

 退院!入院9日目でついに退院です。最後の食事・朝食をいただきました。今日も全粥220グラム、ジャガイモ入りのみそ汁。和風いり卵準、野菜のスープ煮準、たいみそ、ヨーグルト、おやつにビスケットの7品をペロリと平らげました。最後の食事に至るまで完食でした。
 土曜日にもかかわらず、今日も主治医の回診がありました。ありがたいものです。先生から「少々のアルコール、コーヒーもOK」、毎朝の「ウオーキング+スロージョキングも大丈夫」とのお話を伺いました。そして「食事を少しずつ元に戻していくことに注意すればこれまでの生活でよい」とのことでした。一安心、特にアルコール万歳!です。
 看護師さん達にお礼の挨拶を申し上げ病棟を出る時、唯一の手続きは名前などが入ったリストバンドのカットでした。退院日が土曜日のため、支払いは後日請求書が自宅に届くとのことです。一人で手に持つには荷物が多く、病院備え付けのカートに乗せ、妻の待つ玄関に。9日ぶりに会う妻でした。荷物の入ったスーツケースを持って自宅に帰ると、臨時留守番役の娘が「お父さんお帰り!旅行から帰ってきたみたい」と。なるほどなるほどでした。
 退院日のこの日、気付いたことがあります。体力、基礎体力、その中でも脚の衰えです。入院8泊9日。入院は夜、退院は午前9時半、実質7日間の入院でずいぶん下半身の弱体を感じます。とにかく歩く脚に力が入らないのです。これまでそれなりの運動を心がけて来たつもりですが、一週間で現れた変化です。これは絶食や粥食と安静による影響と思いますが、77歳という「高齢」を忘れてはならないのかも知れません。このように考えますと、前ページで触れた高齢者の長期入院の影響がどれほどのものか想像に難くありません。
 自宅に帰って体重を計ると3キロの減少でした。少しずつ体力の回復に努めていきたいと思っています。主治医の先生、看護師さん、そして多くの職員の方々、誠に有り難うございました。

(この項の昨年6月、私自身の入院について「2回に亘って述べる」としましたが、もう一回続け、「今回入院での気付きと教訓」について述べます)