いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第127回

日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】138-143

「2020東京オリンピック・パラリンピックについて」

 この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、「 Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で25巡しました。今月から又、「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活」を見ていきたいと思います。前回のこの項では、生活上の最近チョット気になっていたことについて述べました。今回は、「2020東京オリンピック・パラリンピック」について、オリンピックを中心に一般とは異なる視点で考えます。

箱根
箱根

Ⅰ-138 日本選手大活躍

 東京オリンピックで日本は金27、銀14、銅17の計58個のメダル獲得しました。金メダル数は米国、中国に続いて、第3位。総数では米国、中国、ROC(ロシア・オリンピック委員会)、英国に次ぐ第5位となり、金メダルと共に総数も過去最多という輝かしい成績でした。又、パラリンピックにおいても金13、銀15、銅23の合計51個のメダルとを獲得し、過去2番目の成績となりました。選手の奮闘に心から拍手を送りました。 

 さて、輝かしい成績を残した東京オリンピック・パラリンピックでしたが、その一方で考えさせられる様々な出来事がありました。私なりに検証してみました。

Ⅰ-139 開催に至る様々な問題と辞任劇に見られる「日本的体質」問題が露呈 ①

1 五輪開催地を選考した際の、安倍元首相の発言

原発事故後の状況について「制御されていることを保証する」との発言が有りましが、実情はそんなに生やさしいものではなく、原発敷地内に増え続ける汚染水問題などから多くの批判が飛び交いました。

2 五輪メインスタジアム建て替え問題

当初、未来創造的な(?)ザハ・ハディド氏の設計が採用されたが、高額な建設費用等の問題もあって白紙撤回のドタバタ劇。

3 大会エンブレム盗用騒動

佐野研二郎氏のデザインがエンブレムに選ばれたが、ベルギーの劇場ロゴのデザインに似ていると指摘された。当初、本人は反論していたが、他の件でも盗用疑惑が上がり、選考をやり直すことに。

4 竹田日本オリンピック委員会々長の退任

東京五輪招致をめぐる贈収賄の容疑を受け、2019年6月に任期満了で退任。

5 東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会々長森喜朗氏の辞任

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言。「女性蔑視、オリンピック憲章にも反する」と問題化して辞任するも、後任に川淵三郎氏を指名。川淵氏はそれを受けて承諾するも、「密室人事」の批判を受けて辞退。結果、橋本聖子氏が選出。 

Ⅰ-140 開催に至る様々な問題と辞任劇に見られる「日本的体質」問題が露呈 ②

6 開閉会式演出の総合統括・佐々木宏氏の辞任

佐々木氏が、タレントの渡辺直美さんをブタとして演じさせる演出プランを提案、ブタやブタの鼻の絵文字を使って「オリンピッグ」としていたことが発覚、容姿を侮辱するものだとして問題化。辞任に追い込まれた。  

7 開会式楽曲担当の小山田圭吾氏がいじめ問題で辞任

8 開閉会式のディレクター小林賢太郎氏の解任

ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)をパロディーにする形で「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」と発言したことが問題化し、組織委員会がオリンピック開会の前日に解任を発表

Ⅰ-141 IOCバッハ会長への違和感

  1. オリンピック閉幕後に、ボランティア同行の「銀ぶら」問題。選手には大会中の観光を禁じていただけに、大きな違和感。この行動に対して五輪担当丸川大臣は「オリンピックの開催は感染拡大の原因にはなっていないものと考えている」とした上で、「銀ぶら」について「(不要不急の外出自粛が呼び掛けられている中)『不要不急』かは、これはもうご本人が判断すべきもの」と。この説明にも私は大きな違和感を持ったのですが‥‥。
  2. 開会式で、13分間のスピーチ。「長い!」
  3. 五輪組織委・橋本聖子会長との面談時に、ジャパニーズをチャイニーズと言い間違える(「意識的に?」との見方も)。 
  4. 特別功労賞として最高位の金章を菅総理と小池知事に、「例外的に」授与。新型コロナ禍の開催に尽力したことを評価したと言われていますが、それなら医療従事者に贈呈した方が特別功労賞としては光るのではないでしょうか。
  5. 新型コロナ情勢が緊迫し、緊急事態宣言中にも関わらず、「IOCの財政事情を背景に」(とよく言われました)開催に踏み切ったバッハ会長の判断。このようなことを揶揄して海外メディアからも「ぼったくり男爵」と。
  6. パラリンピック開幕に再来日。政府の新型コロナウイルス対策分科会の尾身茂会長は「人々にいまテレワークを要請している時にまた来る。挨拶が必要ならばなぜオンラインで出来ないのか」と。余りにもIOCの政治的匂いを感じてしまうのです。その他、有観客の提案等々、違和感を持った言動が目についてしまいました。

Ⅰ-142 経緯、協議以外で考えさせられたこと

1「金メダルより大事」

 米国体操女子のシモーン・バイルス選手が、「メンタル面の不調」を理由に、個人総合の出場を突然取りやめました。この選手は、東京五輪で多くのメダルを獲得することが期待されたスーパースターでした。21年7月30日付朝日新聞によると「ストレスがかかっていた。無観客という慣れないことがあった。一年延期もあった。メンタルが十分じゃないから、仲間に任せることにした」と明かしたとのことです。「これに対して仲間たちは『金メダルどうこうじゃないんです』と笑顔で決断を受け入れ」たということです。バイレス選手は続けて「メンタルが健康じゃないと、(体操を)楽しむことはできない。弱っているときに、あらがうのではなく、そこに対応していくことが大切です」と。本人を含め仲間達の対応にも感心させられた次第でした。

 メンタル問題を提起したのは今回のオリンピックではありませんが、女子テニス界のスーパースターである大坂なおみ選手の対応を思い起こします。21年の全仏オープンで、一試合のみに出場しメンタル面の不調を理由に、その後の試合を欠場しました。これがきっかけとなり各界の選手から理解と同調の意見が次々と出されました。私たちは、アスリートは肉体と共に精神面も剛健という錯覚をもっていたことに気付かされました。アスリートは当たり前のことですが、機械人間ではないことを教えられたのでした。

2 河村たかし名古屋市長の金メダルかじり

 ソフトボール金メダリストで、救援投手として大活躍した伊藤希友選手が、名古屋市長を表敬訪問した際、首に掛けて貰った金メダルをわざわざマスクをはずして“がぶり”とかぶりついた行為には、大批判が起こりました。新型コロナ感染防止が呼びかけられ、自身も市長として呼びかけの責任者であるにもかかわらずの行為でです。受賞者自身が、自分のメダルをかじるのを自身に投影させての行為だったのか。極めて非礼な行為そのものでした。市長はこの行為に止まらず、その後の会談で「ええ旦那をもらって」「恋愛は禁止か?」等とも発言し、“かじり”に輪を掛ける事態に。その後市長は批判を受け、謝罪会見を行ったものの、「『謝罪会見』になっていない」「反省が見られない」等、更なる批判を浴び、自ら「3ヶ月分の給与を辞退」することに。一連の行為と発言は上から目線と女性蔑視と受け取られるものでした。

 尚、この一連の問題について、首長への「表敬訪問は必要ないのではないか」という面からの意見も出されました。「表敬訪問」は、政治家自身と一個人(今回の場合は金メダリスト)の宣伝になることを目的にしたものと思いますが、多くの場合前者の政治宣伝に上手に使われてしまうことになってしまうことからなのではないでしょうか。一歩下がって考えてみたいものです。

箱根

Ⅰ-143 総括

 「2020東京オリンピック・パラリンピック大会」と称して、大震災からの「復興五輪」「被災地をありのままに見て貰う機会に」との理念を掲げ、20年の開催が決まりました。しかし新型コロナ情勢によって当時の安倍総理は「一年後完全な形で」との強い決意(?)の下、一年延期の決定となりました。

 その後も新型コロナの厳しい情勢が続く中、各界から再度の開催延期や中止を求める意見が出ると共に、各種アンケートでは開催に賛成が40%、反対が60%という大凡の調査結果となりました。このような国民の空気の中、菅政権は開催可否の協議を行わず、有観客で行うか否かの検討に集中し、「安心安全」の言葉を繰り返しながら開催日を迎えたのでした。

 開催後も新型コロナ感染者数は東京から東京圏そして全国へと拡大、国は「不要不急の外出を自粛」「オリンピックは自宅のテレビで」「県境をまたぐことのないように」「お盆の帰省も自粛」等々を声高に呼びかけましたが、人出は減少することなく、感染者数は「過去最多」の状態が続いたのです。オリンピック開催の高揚感の中、自粛を呼びかけても国民一般には届かなかったのです。それは「オリンピックというアクセルと自粛というブレーキを一緒に踏んでいるようなもの」と言われたことが感覚的にピッタリするのではなかったかと思えてなりません。

 このような感覚はネット上にも反映し、「菅話法を応用し、『中止の考えはない。強い警戒感を持って帰省に臨む』『「バブル方式で帰省する。感染拡大の恐れはないと認識している』『安心安全な帰省に向けて全力で取り組む』『コロナに打ち勝った証しとして帰省する』などと大喜利状態」等の記事を目にしました。

 繰り返しになりますが、IOCの財政事情を背景にしたオリ・パラの開催強行、菅政権のオリ・パラ高揚感を背景にした総選挙対策の結果として「予定通り、安心安全に開催」(?)されたのでした。この項の冒頭でも述べましたが、オリンピックでは金メダルと共にメダル総数の獲得が史上最多という輝かしい成績でした。私たちは選手から数々の感動を貰い心から拍手を送りました。しかし同時に大会開催の経緯と内容をじっくり検証する必要があるのではないでしょうか。そう、菅総裁(首相)のオリ・パラ高揚感を背景にした再選は崩れ、「政権投げだし」となってしまったこと。2013年に開催地を立候補した当時の予算・7340億円の試算が、その後のコロナ対策費や無観客開催によって経費は大幅に増加したと考えられてます。その経費を何処がどの程度負担するのでしょうか。IOCは素知らぬ顔をして横を向いているようですが、その多くは、東京都と国が負担、そうです税金で負担することになるのでしょうか。加えて次元は異なりますが、米国テレビに傾斜した酷暑の大会の是非も含めての検証が必要なのではないでょうか。

最後に、9月11日付朝日新聞「五輪体験してますか?」のアンケート調査結果は次の通りでした。

①「開催前、五輪開催に?」 
賛成だった22% 反対だった78%

②「五輪の開催は?」 
よかった20% どちらともいえない35% よくなかった45%

③「五輪報道の量は適切?」 
多すぎる31% 多い16% やや多い19% 適切31% やや少ない1% 少ない2% 少なすぎる0%

私は、上記①については「反対だった」、②よくなかった、③多すぎる と思いましたが、皆様はどのように感じたでしょうか。