いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第122回

日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】132-137

「コロナ禍の影響で自殺者数の増加について」

この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、 「 Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で24巡しました。今月から又、 「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活を見ていきたいと思います。前回のこの項では新型コロナ禍の気になる傾向。平均寿命の延びと高齢者人口、及び100歳以上の人口そして人口減少問題関係について述べました。今回は、コロナ禍の影響で自殺者数の増加をはじめ、生活上のチョット気になっていることについて述べます。

【追】
 先月にお知らせした、最上三十三観音子歳連合御開帳は、臨時別当会総会で新型コロナの影響を考え、昨年に引き続き「再度一年延期」が決まり、来年(2022年)5月~10月に実施することになりました。

 これを受けて当圓應寺観音祭礼日である4月18日は規模を縮小し、「疫病退散」の祈祷を含めた祭礼法要を執り行いました。来年の4月18日には御開帳立上げ法要を合わせて、盛大に実施できることを切に願うものです。

Ⅰ-132 2019年の自殺者数は最少になったが‥ ~2020年3月17日警察庁発表の確定値~

 2019年の自殺者数は、統計開始の1978年以来最少の20,169人になりました。男性は14,078人(69.8%)、女性6,091人(30.2%)で、男性は女性の2.3倍で相変わらずその数値が目立ちます。年代別では、20~80代以上が低下しているものの、10代は3年連続で増加しているのが特徴で、若い世代への対応が求められています。自殺の動機で最も多かったのは健康問題で9,861人。次いで経済・生活問題3,395人、家庭問題3,039人でした。

 以上のように、最少記録となったものの、1998年以降、G7(先進7カ国)のトップを走り続けており、まだまだ自殺大国に変わりはないことを自覚する必要があります。

Ⅰ-133 2020年の自殺者  ~11年ぶりに増加~

 自殺者数は、一昨年の2019年まで年々減少していましたが、昨年の2020年は、11年ぶりに増加に転じ、女性の急増が顕著になりました。2020年の自殺者数は前年より912人多い2万1081となりました。前年を上回るのは09年以来です。その内容を見ますと、男性は前年比23人減の1万4055人で11年連続減少したのですが、女性は935人増の7026人と大幅に増加したのです。女性増加の要因は勤務・雇用形態を含め相対的に社会的弱者と言われ、新型コロナ禍の影響がより顕著にでたのではないかと見られています。

Ⅰ-134  児童生徒の増加も顕著になりました

 同じく2020年に自殺した生徒児童(小・中・高校生)は、499人で19年より110人増え、統計開始の1980以降最多となりました。警察庁の集計(確定値)によると、その内訳は小学生14人(前年比6人増)、中学生146人(同34人)、高校生339人(同60人)です。特に高校生の女子は前年比60人増となりました。

 月別でで見ると、7月~12月に前年比で増加となり、新型コロナ禍による都市部中心の長期休校が明けた6月。授業の遅れを取り戻すために短縮した夏休みが明けた8月。著名人が自殺した影響も指摘されている11月が目立ちました。原因は、学業不振、進路に関する悩み、うつ病による悩み、その他の精神疾患による悩みなどがあげられています。

 このように新型コロナは若者にも大きな影響をを及ぼし、自殺者の急増となったのではないでしょうか。

Ⅰ-135 親子同時「孤立死」、3年間で14件28人 ~8050問題~ (2020年5月17日・毎日新聞)

 毎日新聞は一昨年(2019年)11~12月に、心中の疑いや火災など事件や事故の可能性がある場合を除いて、「8050」世帯とみられる、子が50歳以上の親子で同時に2人が死亡した状態で発見された件数について全国の警察に調査を掲載しました。

 その結果、高齢の親が無職やひきこもりの中年の子と同居する中、社会とのつながりが薄れたり、困窮するなどの原因で、親子で「孤立死」したとみられるケースが、2016~18年の3年間で少なくとも14件あり、28人が亡くなっていたことが判明したと報じました。

 内訳は、大阪府が一番多く6組12人。次いで神奈川県が5組10人で、佐賀県は2組4人、石川県は1組2人。大阪府警によると、死亡した12人の家庭は親が73~93歳、子は50~66歳でいずれも2人暮らし。死因は、病死が4人、凍死の疑いが3人、熱中症の疑いは2人、転倒と18年6月の大阪北部地震の震災関連死が、それぞれ1人ということでした。親子の死亡推定日から発見までに最も長い期間は約3カ月ということです。

 「8050問題」の象徴的な調査結果ですが、実際の「親子同時孤立死」の件数はもっと多いのではないかと見られています。

Ⅰ-136  「同居の家族以外に頼れる人」はいますか?

 私たちの日常は、家族をはじめ地域、職場、サークル等々の人々と繋がりを持ち、人と人の間で生活しています。しかし高齢になりますと夫婦だけ又は1人だけの生活をしている方々が大変多くなっています。そこでいざというときの家族以外に頼れる人がどの程度いるのかについて、調査が行われました。少し古いのですが、5年に一度実施される「平成27年度 第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」(内閣府)の内容を見てみたいと思います。

 「病気の時や、一人では出来ない日常生活に必要な作業が必要な時、同居の家族以外に頼れる人がいるか」についてみると、各国とも「別居の家族・親族」(日本66.2%、アメリカ60.7%、ドイツ69.0%、スウェーデン59.2%)の割合が最も高くなっている。一方、「友人」の割合は、欧米3か国(アメリカ・ドイツ45.0%、スウェーデン43.4%)が日本(18.5%)に比べて二倍以上高くなってい ます。

 一方、「頼れる人がいない」の割合は、アメリカ13.0%、ドイツ5.8%、スエーデン10.8%に対して日本は16.1%と調査実施国中で最も高い数値で、日本の高齢者は、家族・親族との結びつきは強いものの友人との関係はかなり希薄となっており、6人に一人が「頼れる人がいない」現状にあるようです。

 このような日本の生活状況は、前項の「親子同時孤立死」問題の背景の一因と考えられますが、同時にこれまでも述べてきましたが、「老後」の生活は、経済的にも精神的にもそして身体的にも厳しい状況下にあるのではないでしょうか。

Ⅰ-137 改めて「福祉」とは

セミナーのチラシ

 2019(令和元)年11月16日、私の出身大学である愛知県の日本福祉大学による「第31回 日本福祉大学社会福祉セミナー in山形」が「新時代における地域共生社会への取り組み ~やまがた愛・ずっと山形(やまがだ)さいでえ~」と題して山形市で開催されました。当日は同窓生を中心に150人ほどの参加があり、大盛況のセミナーとなりました。プログラムは講演2題とシンポジウムが行われましたが、何十ぶりかで昔の学生気分に戻った感じでした。

 その中で私として極めて印象的だったのは、日本福祉大として、平仮名の「ふくしの総合大学」を唱え、その「ふくし」の説明として、次のように提起していることでした。その中身は、「ふくしの『ふ』……は『ふだん』のふ」、「ふくしの『く』は『くらしのく」、「ふくしの『し』は『しあわせ』のし」というのです。なるほどなるほど! 「福祉」とは何?と問われて直ぐ答えるのはなかなか難しいことですが、平易に答えたこの説明には、納得ナットクです。

 日本の今を直視するとき、「ふだんの くらしの しあわせ」がどのようになっているのか、この観点でしっかり見て考えることが必要になっているのではないでしょうか。素晴らしい観点を頂いたと思っています。