圓應寺 住職法話
住職法話 第42回
緩和ケア医療に学ぶ生と死
【生と死の考察】43~48
「死期が近い患者さんの課題と想い 最期を迎える場所の希望」
前回のこの項は、患者さんの最も身近な存在である看護師に求められる「人間力」について述べました。今回は死期が近い患者さんの課題と想い、そして最期を迎える場所の希望について述べます。
Ⅱ-43. 本人が「死に直面した時の6つの課題」(アルフォンス デーケン氏)
死生学の先駆者であるアルフォンス・デーケン先生は、「死に直面した時の6つの課題」として以下の項目を上げています。
① 手放す心 ~執着心を断つ
② 許しと和解
③ 感謝の表明
④ 「さよなら」を告げる
⑤ 遺言状の作成
⑥ 自分なりの葬儀方法を考え周囲に伝えておく
以上ですが、①については金、名誉、地位などに対する執着心を捨て、清々しい自分に。②は人間関係の中で気になる関係を清算し、③は家族をはじめ友人知人に感謝の言葉をという事ですが、考えてみますと生きていく日常生活の上でも必要な課題です。人生の最期には6項目を果たしたいものですが、出来れば日頃からこの様な課題に向き合っていきたいものです。
Ⅱ-44. 医師の「延命治療」についての考え
(2012年11月 インターネット調査・医療情報サイト運営・ケアネットより)
判断力・意思疎通が出来なくなり回復見込めない状況で71%の医師が「延命治療は控えて欲しい」と答えています。 その理由として、
- 「家族の負担が大きすぎるから」
- 「お金や医療資源は必要な人に使うべき」。
を上げています。一方で22%の医師が延命治療をするか否かは「家族の判断に任せたい」との結果でした。 以上のような答えから、医師という職業の特性をかいま見ることが出来る感じがします。特に「延命治療は控えて欲しい」の理由として「お金や医療資源は必要な人に使うべき」を上げている点です。日常的に生と死に関わる医師としての職業的意識なのでしょうか。
Ⅱ-45. 死期が近い場合心配や不安に感じること
(日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団 2005年アンケート調査(複数回答)全国の20~89歳の一般男女1078人対象調査より)
① 病気が悪化するにつれ、痛みや苦しみがあるのではないか | 66% |
② 家族や親友と分かれなければならないこと | 45% |
③ 残された家族が精神的に立ち直れるかということ | 43% |
④ 自分のやりたいことがやれずじまいになること。やり残したことがあること | 41% |
⑤ 残された家族が経済的に困るのではないかということ | 30% |
以上のように、次第に体力の衰えを感じ、病状が進んだ患者さんにとって、痛みに対する不安が最も大きいことが分かります。この調査は10年ほど前のものであることと緩和ケア病棟の患者さんを対象にしたものではないことも影響していると思います。
緩和ケア医療を一般の方々によく知っていただくことと共に、専門の緩和ケア病棟を持たない一般の医療機関にあっても、緩和ケア医療チームの立ち上げを始めとして緩和ケア医療への理解と取り組みがより一層求められるのではないでしょうか。
Ⅱ-46. 「死の淵で見えたものは?」
(複数回答 09.10.17 東北緩和医療研究会、東北大学・爽秋会岡部病院 大村哲夫氏)
① 既に亡くなった家族や知り合い既に亡くなった家族や知り合い | 52.9% |
② その他の人物 | 34.2% |
③ お花畑 | 7.7% |
④ 仏 | 5.2% |
⑤ 光 | 5.2% |
⑥ 川 | 3.9% |
⑦ 神 | 0.6% |
⑧ トンネル | 0.6% |
⑨ その他 | 31.0% |
この調査によりますと、一般的によく言われる「きれいなお花畑だった」「『 オーイ! こっちにおいで~!』と呼ばれたが向こうに行かなかった」等という話を聞くことがありますが、お花畑は一定の割合を占めているものの、多いのはかつての家族や知人です。これに「その他の人物」を加えますと「人」に関するものが圧倒的割合となります。
これは私たち人間は、一人ではなく人と人との間で生きていることの何よりの証のように思えてなりません。
Ⅱ-47. 人生の最期は何処で?
2011年12月3日付、朝日新聞のアンケート調査によりますと、自宅で迎えたい人と自宅以外を希望する人がそれぞれ50%という結果です。
自宅を希望する人の理由は
① 最期は自分のペースで過ごしたい | 1104人 |
② 家族と共にいたい | 979人 |
③ 延命治療など意に沿わない医療は嫌 | 870人 |
反対に自宅以外を希望する人の理由は
① 家族に負担をかけたくない | 1353人 |
② 最期まで医療機関で診療を受けたい | 399人 |
③ 自宅に思い入れがない | 234人 |
以上の結果ですが、私が在職していた10年前の実感は、「自宅で死にたい」という患者さんが圧倒的に多く、7~8割だった感じですが、時と共にこの様な傾向に変化したということでしょうか。
Ⅱ-48.「自宅で最期を迎えるには何が必要?」
前項の調査によりますと
① 家族の理解 | 2512人 |
② 在宅を支える訪問医療 | 2030人 |
③ お金 | 1454人 |
何よりも家族の理解が大切ですが、時の経過と共に家族に対する気遣い(迷惑をかけたくない)という意識が次第に強くなっているように感じます。又、在宅医療を支える訪問医療が必要ですが、在宅緩和医療についてはその専門医が少ないこともあり、まだまだというのが実態です。
前項で自宅と自宅以外を希望する方が同じ割合というデーターを紹介しましたが、自宅を希望する方の中には「希望しても実際はなかなか困難」と考えている方も多いのではないでしょうか。
自宅での最期には、この項の①と②がどうしても必要になり、現実とのギャップに加え、「家族に迷惑をかけたくない」という心理も働いてしまうからです。
この件についてはこの項の次回にもう少し詳しく述べたいと思います。