いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第38回

緩和ケア医療に学ぶ生と死
【生と死の考察】37~42

「看護師さんに求められる人間力」

 前回のこの項は、緩和ケア病棟は単に「死に行く病棟」ではないこと、痛みが緩和し病状が安定した場合を中心に述べました。今回は患者さんの最も身近な存在である看護師さんに求められる「人間力」について述べます。

Ⅱ-37. 「入院生活」の特徴 ~求められる看護師の人間力~ ①

 これまで述べてきましたように緩和ケア病棟の患者さんは、余命数ヶ月という限られたいのちを生きる厳しい状態にあるため、一般の病棟の患者さんとはとかなり異なる状況下にあります。
 この様な患者さんを日常的に看護・お世話し、身近にいるのが看護師さん達です。一般病棟に比べより人間力が求められる職場となります。
 死を前にして今日を生きる患者さんへの対応は、生やさしいものではありません。積極的に何かをしてあげる気持ちも大切ですが、何よりも患者さんの近くにいること、そして聞き役が求められます。患者さんからの問いかけは様々です。時には「自分が死んだら自分はどうなる?」等という究極の問いもあります。自分にはそれに応える力がないということで逃げることは出来ません。つらい困難な問いにも、逃げることなく一緒に考える力と忍耐、つまり「人間力」が求められるのです。

Ⅱ-38. 「入院生活」の特徴 ~求められる看護師の人間力~ ②

 究極の問いとして「自分が死んだら自分はどうなる?」という問いを前項で述べましたが、同じような問いに「自分が死んだら何処へ行くの?」という質問を投げかけられる場合もあります。どのように応えればよいのでしょうか。時としてあまりに難しい問いかけに「今忙しいので‥」などの言葉を残してその場から離れてしまいますと、その患者さんは二度とその人には聴かないことになるでしょう。この様な質問は、患者さんがその職員との関係を信じてこその質問なのです。誰にでも発する質問ではありません。
 それではどのような対応が出来るのでしょうか。(死に行く)患者さんは極めて強い孤独感の中に居ます。多くの場合はこの孤独感の中から出てきた問いがこの質問です。
 この究極の問いに対する明確な答えは有りません。しかし人間力として対応は出来るのです。先にも述べましたが、先ず大切なことは患者さんから逃げることなく側に居続けることなのです。そして患者さんの顔を見ながら「どうなるんでしょうネ‥‥?」「何処に行くんでしょう‥‥?」と。患者さんの問いに一緒に考え、お付き合いをすることが求められるのです。

Ⅱ-39. 「入院生活」の特徴 ~求められる看護師の人間力~ ③

 ほとんどの患者さんは「死んだらどうなる‥何処へ」に対して明確な答えを求めているわけではありません。誰も死後の世界を見た者は居ないのですから。
 仏教を開いた釈尊は、弟子の「死後の世界は?」との問い対して「もっと大事なことを問え、死後の世界は誰も経験していない。死んでからのことより今の生き方を問え!」と諭したと言われています。お釈迦様自身、死後の世界については一切述べておりません。
 但し、現在の仏教界にあっては死後の世界に一切触れないというわけにはいきません。私が県立中央病院の現職だった頃、私は僧侶としての立場を離れて仕事をしました。「公立病院で布教!」などと誤解を招くことのないよう、十分注意したからです。但し、檀家の方それも十分に気心が知れた方には、「密厳浄土(極楽)の世界に」「先に亡くなった方々と一緒の安寧な世界に」等との話しをしておりました。

Ⅱ-40. 「入院生活」の特徴 ~求められる看護師の人間力~ ④

 「自分が死んだら自分はどうなる?」「自分が死んだら何処へ行くの?」という対応が非常に難しい患者さんからの質問は、この他にも「何故私がガンになってしまったの?」「私が生まれてきた意味は何?」「何故私が死ななければならないの?」「もう早く死にたい」等々です。
 これらの質問には、側にいることと一緒に考えることの大切さについて述べましたが、出来ることなら手を握ったり手足をさすりながらの寄り添いが、患者さんとの距離をより縮めることになります。又、状況によっては「○○さんのことはご家族の方々の心にずっと残ります、ご家族に生き続けます」と。

Ⅱ-41. 「入院生活」の特徴 ~求められる看護師の人間力~ ⑤

談話室

 患者さんと直接心の響きが伝わらないときには、患者さんとの間にちょっとした工夫によって意外にスムーズに響き合う場合があります。患者さんの趣味、関心事はもとより、場合によってはこちら側の関心・得意ごとでも良いのです。簡単な折り紙、草花、ラジオ・テレビ番組、ラジカセを使った音楽等々。何でもかまいませんが、それらを媒介にして患者さんとの接点と間を持つのです。
 これまで元気に生きてきた人が、病気をすることによって「新しい人生を見た!」などという場合もあります。看護師も又この様な新しい人生にお付き合いできる看護力、否人間力が求められます。

Ⅱ-42. 「入院生活」の特徴 ~求められる看護師の人間力~ ⑥

談話室

 この様に考えますと緩和ケア病棟は、立派で超ベテランの看護師だけ、となりそうですがそうではありません。ベテランから若い人まで多層に亘る構成が一番良いように思います。患者さんは高齢者に限りませんし、時として若い発想が必要なのです。  患者さんの側にいることの大切さ、ちょっとした工夫等について述べましたが、もう一つ大切なことかがあります。患者さんの話を心を込めて聴くためには、患者さんと同じ目線での語らいが大切です。忙しさの余り、立ったままでの上から目線ではなく、椅子に座り同じ高さでの聞き役です。これによって患者さんは「聴いてもらえる」を実感し安心して話が出来るのです。
 看護の基本である(と言うより医療人、人として)思いやりと優しさこそが最も大事な欠かせない要件と言えましょう。