いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第35回

日々の生活の質をいかに高めるか
【生活の質の考察】26~31

「自殺と自死 2」

 この項の前回は、「自死」と「自殺」について述べました。今回は具体例について述べます。

Ⅳ-26.私の経験 ~ご本人・ご家族(ご遺族)への面接・相談について~ ①

カナディアンロッキー

 山形県立中央病院には救命救急センターが併設されている関係から、自死(自殺)行為にいたった患者さんが救急搬送されます。
 患者さんの救命に向け懸命な医療を尽くすことになりますが、自死に関わる医療費は、「疾病ではない」ということから原則として公的医療保険が適用されません。つまり全額が本人又はご家族の自己負担となってしまいます。治療内容によっては数100万円、中には1000万円近くになる方もおります。その上救命出来ずお亡くなりますとご遺族に多額の医療費が負の遺産としてのこってしまいます。
 したがって、医療福祉相談員としての私は、何とか公的医療保険の適用が出来る道がないかを検討するため、ご本人・家族との面接・相談をすることになります。その内容は時として医療費問題にとどまることなく、広範囲にわたることも希ではありません。この様な面接・相談ケースは年間平均30件前後となりました。

Ⅳ-27.私の経験 ~ご本人・ご家族(ご遺族)への面接・相談について~ ②

 入院当初、症例によっては急性期を脱した段階で担当医から相談室への相談依頼、又は、担当医やスタッフから紹介されてご本人・家族が相談室を訪れます。この場合、医療費問題という当面の課題がはっきりしていますので、本人・家族の精神的支えが第一ですが、これをキッカケとして自死行為に至るご本人の思いや原因と経過、家族や友人・会社関係そして経済的事情等々に及ぶ相談になります。
 相談・面接はベッドサイド、救命センター面接室、又は病院の相談室で行いますが、相談室では原則としてテーブルを挟んで行い、正対の位置取りはしません。正対は見つめ、見つめられるという緊張関係の位置取りです。したがって面接室のテーブルそのものを五角形に造って頂きました。五角形にしますとどの位置取りをしても正対することにはならないからです。やや斜めで対応することにより随分緊張関係が和らぐものです。

Ⅳ-28.ご本人・ご家族(ご遺族)への面接・相談の具体例 ①

 患者さんは○歳代の女性。 夫によると「夜、一人で酒を大量に飲み、自分に『明日になったら……』とボソッと語って寝室に」。その後、何となく気になり夫が寝室を覗き意識不明の状態で、側に除草剤の瓶が転がっているのを発見。救命センターに緊急搬送。以上が医療費の相談をキッカケに夫が話した状況です。私は、医療費の問題の必要なことをしっかり説明した後、相手(この場合は夫)の話をじっくり聴くことになります。

「何となく気になって寝室に行って良かった」
「ホントに良かったですね」
「実は大分前から夜寝られないようだったのと食事もあまり……」
「ああそうだったんですか」
「医者に行かせようかと思っていたんですけど『そのうち治る……』と。自分の仕事が忙しく帰宅が夜遅くて……そのままに」
「忙しかったんですね……」
「矢張り妻のことをもう少し考えていたら‥もうチョット話を聴いていたら……」
「そうですね、でも早く気付いて助かって良かったですね」
(※太字が私の言葉になります。)

 面接・相談の概要です。ただ聴き役に徹し、相づちを打つことによって夫は今後の対応を自ら見いだし語ることが出来るのです。私の方から「もっと奥さんの気持ちを聴いてあげて」と言ったのでは何もなりません。夫が相手(私)に語りながら自らの対応を考えることこそ必要なことなのです。

Ⅳ-29.ご本人・ご家族(ご遺族)への面接・相談の具体例 ②

 アパートに一人暮らしの女性。夕方、近くに住んでいる母親に呂律が回らない状態で電話。母親がすぐ様子を見に行くと娘が倒れているのを発見。市販の農薬を多量に服用していた。これまでにも数回のリストカット歴があったとのこと。
 この女性のように、自死にいたる人びとは「死にたい」と思ったり口に出しても、全ての人が即決定的行動に走るわけではありません。ためらいキズ様のリストカット、薬を飲んでから母親への電話。この段階で何とか対応出来た結果が、救命に繋がったと言えます。相談室で両親は「これからは一緒に生活するようにしたい」と。

Ⅳ-30.ご本人・ご家族(ご遺族)への面接・相談の具体例 ③

 女子高校生。自宅で意識消失しているところを発見。側に睡眠薬の袋が散乱。救急救命センター到着時はなんとか自発呼吸がある状態。
 両親に保険適用は原則として出来ないものの、例外としての適用もあり、了解して頂ければ、保険者に病院側から折衝する旨説明。しかし両親としては「自殺未遂?」として自死行為そのものを認めたがらない状態であった。そのため両親の心が治まり、現実を直視出来るまで待つことに。主治医からも単なる事故とは考えられず「自らの行為」であるとの認識を伝えることに。
 以後、数回に亘って両親に面接。両親は保険適用の折衝過程で保険者を含め自殺未遂行為がどの範囲まで知れ渡るのかについて切々と質問があった。保険者にも秘密保持の義務があることなどを説明、ようやく納得される。

このケースは、
①「自殺行為」が世間に知られたくない
②そのため「自殺行為」そのものを認めたくない

という両親の強い思いがあった。救命できたものの本人に対する今後の対応より、自殺を隠すことにエネルギーが集中してしまった。
 ともかく、事実をそのまま認めることが出来る時間的精神的余裕が必要であった。
じっくり慌てずに対応した結果、事実を事実として受け止めるところまでは出来ましたが、家庭内での親子関係、両親の娘より世間体を気にする問題点についてはそのままに。

Ⅳ-31.ご本人・ご家族(ご遺族)への面接・相談の具体例 ④

 ○歳代男性「Aを殺してきた。自分も死ななければ」と言って家を飛び出し、灯油による焼身自死を図る。後で家人がAを確認すると何事もなかったことが判明。熱傷で救命に搬送、意識回復しても一連の行為を全く覚えておらず、本人は「どうしてこんな事をしたのか?」。心療内科医に相談、「心臓病と脳梗塞による『一時的なせん妄状態』からの行為」との診断を受け、保険者に電話折衝。その結果保険適用に。しかし数日後保険者より「先に保険適用OKの返事をしたが、前歴を調べても精神科歴がないことや、『せんもう状態』ということでは保険適用出来ないということになった」と保険適用外の電話。納得できず「あまりにも厳しい裁定、当院としては心療内科医による診断書を発行し、再考を求める」旨、強く訴えた。結果、保険適用に。

 以上のように、自死行為に関する医療費は原則として公的医療保険は適用されませんが、精神的な病があってその結果として自死行為に到った場合は例外として保険適用になります。負の遺産を残さないためにも患者ご本人・ご家族から出来るだけ経緯を伺うと共に、心療内科医と相談しながら保険者に折衝することになります。保険財政の厳しい中で、出来れば適用外としたい保険者の一方、適用を積極的に考える保険者もあります。患者・家族の立場で保険適用をお願いするのが「医療福祉相談員」の仕事です。