圓應寺 住職法話
住職法話 第33回
緩和ケア医療に学ぶ生と死
【生と死の考察】32~36
「緩和ケア病棟は単に“死に行く病棟”ではない」
今回のこの項は、緩和ケア病棟は単に「死に行く病棟」ではないこと、痛みが緩和し病状が安定した場合を中心に述べます。
Ⅱ-32. 「入院生活」の特徴 ~単に死に行く病棟ではない 患者さんの自立と自律~
専門医による医療用麻薬によって、身体的痛みが緩和されて精神的にも元気になり、中には食欲・睡眠も回復する患者さんもおられます。
病状が落ち着きますと、当然退院となります(近年、緩和ケア医療が進み、痛みが出る前から医療用麻薬を投与する場合もあるようです)。「緩和ケア病棟に入棟イコール死」と言った誤解がありますが、緩和ケア病棟からの退院もあるのです。但し、ガンそのものが根治した訳ではありませんので病状の安定は長く続くとは限りません。
そこで緩和ケア病棟では、この様な患者さんの再入院を想定して15床のうち1床を出来るだけ空けるようにしています。当然緩和ケア病棟から退院した方が病状悪化の場合は、優先的に再入院となります。これは「病状が悪化した場合はいつでも再入院出来る」という安心感を持って退院していただくためにも必要なことなのです。
Ⅱ-33. 「入院生活」の特徴 ~単に死に行く病棟ではない 家族の過労時には~
患者さんが退院しますと、訪問医、訪問看護、ヘルパー、入浴サービス等々の支援を受けながら、家族が在宅でお世話をすることになります。
しかし柱となってお世話する中心的介護者の役割は多くの場合24時間です。時には介護者に過度の疲労が生じ、介護困難になる場合もあります。
この様な場合にも患者さんとご家族に再入院を勧める場合もあるのです。つまり緩和ケア病棟は、ご家族を含めたケア病棟でもあるのです。
Ⅱ-34. 「入院生活」の特徴
~単に死に行く病棟ではない 穏やかな心その三本柱~
死の訪れが間もなく‥‥という患者さんでも、中には心穏やかな方がおります。『東京・生と死を考える会』の会報「カイロス」30号で、小澤竹俊氏(めぐみ在宅クリニック院長)の考えを紹介しております。それによりますと「間もなく自分が死ぬと分かっている人」の心の支えとして「三つの柱」を挙げております。
第一は将来の夢(時間存在)
たとえ今辛くても将来の夢が有ると思ったとき、今を生きる支えになります。
第二は支えとなる関係(関係存在)
人は一人では弱いが心から思ってくれる他者との関係が有るとき今を生きる支えになります
第三は自己決定できる自由(自律存在)
種々の選択肢から自己決定出来る自由ということです。
この第三の柱に関しては今年の2月、第23回で詳しく紹介しました。
Ⅱ-35. 「入院生活」の特徴
~単に死に行く病棟ではない 遺族にとって(患者にとっても)~
前項と同じ「カイロス」30号で、奥様を亡くした方のご遺族の感情を紹介しております(私はご遺族だけでなく患者さんも同じ感情なのではないかと思っています)。
それによりますと「遺族は、相矛盾する感情を抱きます。『人間関係は有り難くも有り 煩わしくもあり』、『余計なことは言ってもらいたくない でもほったらかしは辛い』、『特別扱いはして欲しくない でも全く配慮がないというのは辛い』、大変多い『頑張れ』は十分頑張っているのに『今の君ではダメ、もっと頑張れ』と聞こえる。貴方のことを気に掛けている、それをどんな形で伝えるかが、大切だと思います。この点、手書きの手紙やカードはぬくもりが伝わり、読みたいときに何回でも読めますので、非常にありがたかった」と述べておられます。
ご遺族だけではなく、患者さんご本人にもこの様な配慮が求められます。
Ⅱ-36. 「入院生活」の特徴 ~エンゼルメイク 死亡そして退院~
幾多の手当・願いむなしく残念ながらお亡くなりになった場合、山形県立中央病院緩和ケア病棟では、ご家族の了解の下「エンゼルメイク」を実施します。
「エンゼルメイク」という言葉はまだまだ一般化しておりませんが、以前は「死後処置」「死後化粧」等と言っていたでしょうか。上記緩和ケア病棟では日中に亡くなった患者さんについて担当の看護師を中心に入浴サービスを行います。生前お風呂好きだった患者さんでも亡くなるまでの一定期間はなかなか入浴出来ない状況下になります。 そこで出来るだけご家族にも参加していただきながら、浴槽につかっていただく患者さんに「○○さん本当によく頑張ったネ」「ご家族は決して○○さんのこと忘れないからネ」「安心して!△△さんのことはちゃんと支えるからネ(育てるからネ)」等々と語りかけながら入浴していただきます。この場は患者さんに対する最後の医療的ケアとなりますが、実はご家族(ご遺族)に対するグリーフケアの場でもあるのです。時に涙しながら時に笑顔で語りかけながらの時間が流れます。風呂から上がりますと顔を洗い、きれいに化粧を施します。そして退院となります。人手の関係から夜間になくなった場合はこのような「エンゼルメイク」は出来ませんか、多くのご家族に受け入れられております。
メイクを施した看護師は、病棟の玄関でお別れとなりますが、「火葬までの数日間、メイクが綺麗に続くのだろうか」等の不安がつきまといます。そこで僧侶の立場から葬祭業者との関係がある私が間に入り、看護師と葬祭業者とのエンゼルメイクに関する研修会を実施したことがあります。病棟でのメイクは綺麗なまま続いているとのことで、一安心した看護師の顔が思い浮かびます。
尚、葬祭業者の方でも「湯灌」という遺体を清拭するサービスを実施しています。山形では6~8万円程度のようです。
次回のこの項では患者さんの最も身近な存在である医師と看護師に求められる「人間力」について述べます。