いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第23回

緩和ケア医療に学ぶ生と死
【生と死の考察】22~24

「緩和ケア病棟での“生活” 私の経験談」

 この項「緩和ケア医療に学ぶ生と死」では、今回も緩和ケア病棟での“生活”について述べます。この生活は、全国の緩和ケア病棟で少しずつ異なると思いますが、私が経験した山形県立中央病院の緩和ケア病棟の“生活”を中心に述べます。

この度の武装勢力によるアルジェリアの人質事件で、犠牲になった多くの方々に心より哀悼の意を表します。

Ⅱ-22. 「入院生活」の特徴 ~単に死に行く病棟ではない 患者さんの自立と自律~

真言宗豊山派・大本山護国寺

 「緩和ケア病棟は死に行く病棟」との見方が良くあります。これは大変な誤解です。その誤解を解くために幾つか説明したいと思います。その一つとして「自立と自律」について考えます。
 めぐみクリニック院長・小澤竹俊著「13歳からのいのちの授業」によりますと、患者さんには「自立」と「自律」が大切であることを説いています。小澤先生は、昔山形県立中央病院に勤務されたことがあり、私も一緒に仕事をさせていただいた縁のある先生です。その先生によりますと、「自立」は、自分で食事、トイレに行くことが出来る、一人で風呂に、 社会人になり給料で生活出来るようになる。このように他の人に頼らないで自分で出来ることなどを意味します。その「自立を失う」こととは、例えば脳疾患等で身体障がい者になったような場合に、上記が出来なくなることを意味します。一方、「自律」は「自立」を失っても「自律」は失わないこともあると先生は言っています。排泄の場合を例に、 ① 一人でトイレに ② 車いす介助でトイレに ③ ポータブルトイレで ④ 紙おむつ使用等 の段階がありますが、「自律を保つ」事が大切として、昼は①、夜は③など上記を選択する自由がその患者さんにあることが大切と言っています。人間として生き方を 自由に選択できることは生きていく上での大きな柱であることを力説しています。全てに於いて自己決定できない状況下では、その人が人間として生きていく上で全て受け身になってしまうことを意味してしまうのです。

Ⅱ-23. 「入院生活」の特徴 ~単に死に行く病棟ではない 「今日も生きてる!」~

 身体的痛みからの解放は精神的にも元気を回復します。 病室に患者さんを訪ねると 「タルイシさん、今朝『目覚めた! 今日も生きてる!』と感激しました」と。又、今日一日生きられると思うと‥‥」と、今生きている喜びを実感を持って語ってくれます。同じように「あゝ今日、自分でトイレに立てた!」という喜びも。
 緩和ケア病棟では体中を管に繋いだ「マカロニ状態を」出来るだけ避けます。しかも病室にトイレがありますので(山形県立中央病院緩和ケア病棟)、比較的利用できる環境にあることもありますが、自分でトイレ出来る喜びは、健康で元気にしている人にとってはなかなか理解できません。そうです!普通の人にとっては朝が来るのは当たり前、自分でトイレも当然。その当たり前で当然のことが余命3~6ヶ月の患者さんにとっては実に新鮮であり、感動であり喜びなのです。

 私は、前回のこの項Ⅱ-21で述べたことに加え、僧侶としての活動の原点がここにもあります。つまり、余命わずかになってから「今日一日の大切さ、日常的なものの大切さ」に気付くのではなく、若く元気でいる頃からこの事の大切さを自覚する必要を学んだのです。そうです、限られた人生を「いかに生きいかに死ぬか」の原点なのです。

Ⅱ-24. 「入院生活」の特徴
      ~単に死に行く病棟ではない 患者さんと家族の貴重な時間 ①~

 前にも述べましたが、家族の面会は24時間OK、宿泊もOKです。患者さんは家族と共に残された貴重な時間を過ごすことが出来ます。このことは、本人のみならず、家族にとっても貴重な時間なのです。患者さんと過ごした「入院生活」の思い出は、患者さんが亡くなった後にも思い出として残ります。限られた時間を共に過ごすことは、多くの場合ご家族の心の癒しとなるのです。一般の病棟と大きく異なるところです。

Ⅱ-25. 「入院生活」の特徴
      ~単に死に行く病棟ではない 患者さんと家族の貴重な時間 ②~

限られたいのちの病室

 病室のこの写真は以前にも掲載したものですが、患者さんの側らにはテーブルとソファーがあります。このソファーはベッドにもなります。家族はここで一緒に寝ることが出来ます。患者さんとともに語らい、一緒にテレビを見、お茶を飲み食事も。時には患者さんの求めに応じてアルコールが入ることも。
 前にも述べましたが、数ヶ月の「限られたいのち」の患者さんは、多くの場合孤独であり人恋しい状態となりますが、一方で余り人には会いたくない患者さんもおります。後者の場合は家族の面会が中心になりますが、前者の場合は、容体が許す限り、病室は友人知人との語らいの場にもなるのです。

Ⅱ-26. 「入院生活」の特徴
      ~単に死に行く病棟ではない 患者さんと家族の貴重な時間 ③~

談話室

 患者さんの状態が許せば、写真の談話室でボランティアによる午後の「ティーサービス会」に参加します。家族、友人と共に参加する場合もあり、楽しい一時を過ごします。比較的元気な患者さんはここで食事を摂ります。この談話室では、ボランティア主導による寸劇、コーラス等の楽しみもあります。たまには有名な俳優さんの見舞いを受けることもあります。
 しかし、この様な緩和ケア病棟のあり方の中でも、身近に迫るいのちの終焉を前に、うつ状態(うつ病の人も)になってしまう患者さんも少なからずおられます。

 この項の次回は、患者さんに少しでも前向きになっていただくための方策から述べたいと思います。