いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第92回

日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】95~100

「『人生80年』時代、そして学会による高齢者の定義について」

 さて、この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、「 Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で18巡しました。今月から又、「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活を見ていきたいと思います。
 前回のこの項では、最近取り上げられているいくつかの老人問題を紹介し、考えてみました。今回は、「人生80年」時代、そして日本老年学会と日本老年医学会の高齢者の定義について述べます。

Ⅰ-95 「人生80年」時代にあって

最上川舟下り

 近年、定年退職後の生活について多くの記事を目にする時代となりました。それもこれも「人生80年」の時代(人によっては「いやいや人生は100年時代!」という人も)にあって、「終活」をはじめ様々な側面から語られるようになりました。考えてみると昭和20~25年頃の平均寿命は52歳前後、会社の一般的定年は50歳。当時の働き手は専ら男性時代で、ひたすら一家のために働いて定年になると間もなく「おむかえ」がやって来たのでした。しかし現在は65歳定年後、「おむかえ」までは、かなりの年数となりました。しかし寿命がいくら延びても「おむかえ」は必ずやって来ます。その準備・「終活」をいかに準備するか、そしていかに充実した生活を送ることが出来るのかが大きな課題となってきました。このようなことから多くのマスコミで取り上げるようになったのではないでしょうか。現役時代から準備すると共に退職後も幸福度アップに向けた生き方をしていきたいものです。

Ⅰ-96 高齢社会を反映、ペットの「猫が犬を逆転」

 2006年5月1日付本稿で「現代世相を映す ~ペット 猫が犬を近々逆転か~」と題して述べましたが、ついに2017年に猫が犬を逆転したとの報道が流れました。ペットフードメーカーの業界団体「ペットフード協会」が17年12月22日発表した調査結果です。それによりますと猫が953万匹(前年比2.3%増)、犬は892万匹(同4.7%減)で調査開始(1994年)以来、初めて猫が犬を上回ったということです。この逆転は以前述べましたように、犬は散歩などの飼い主の負担が多きく高齢者に敬遠されるようになってきたことが考えられるのに対して、猫は散歩の必要もなく単身者でも飼いやすいということでしょうか。いずれにしても日本社会の高齢化時代がペット事情にまで影響しているのは間違いないようです。

Ⅰ-97 「高齢者75歳以上」の提言 ①

 この様な中、日本老年学会と日本老年医学会(正式には両学会の構成員で組織されたワーキンググループ)は、2017(平成29)年1月5日一般的に65歳以上とされている高齢者の定義について「75歳以上にすべき」という提言を発表しました。その上で、75~89歳を高齢者、90歳以上を超高齢者と提案したのです。
 65~74歳は「心身とも元気な人が多く、高齢者とするのは時代に合わない」として、新たに「准高齢者」と位置付けました。65歳以上では脳卒中などで治療を受ける割合が以前より低下する一方、歩行速度などが上がる傾向にあり、生物学的に見た年齢は10~20年前に比べて5~10歳は若返っていると判断。知的機能の面でも、70代の検査の平均得点は10年前の60代に相当するという報告が有り、根拠の一つとしました。

Ⅰ-98 「高齢者75歳以上」の提言 ②

 「高齢とは何歳以上か」の2014年、内閣府の意識調査で、「75歳以上」との答えが28%で、15年前より13ポイント上がったのに対し、「65歳以上」は6%で12ポイント下がりました。こうしたことから、提言では高齢者は75歳以上とし、65~74歳は「高齢者の準備期」としてこの世代を「社会を支える人たち」としました。「医学的な立場から検討した」グループ座長の大内尉義(ヤスヨシ)・虎ノ門病院長は記者会見で、「高齢者の定義を変えることで、社会福祉などがネガティブな方向に動いて欲しくない」としながらも「国民はこれをどう利用するかは別問題」とかたりました。(以上、朝日新聞の内容)
 更に2017年1月27日付山形新聞で大内座長は次の例えを紹介しています。「分かり易い例が、1946年から新聞に連載された漫画『サザエさん』のお父さん、波平の年齢設定で54歳だ。今の平均的な50代のイメージとは懸け離れている。中身だけでなく見かけも若くなっている」と。この波平さんの例えは、私が講演や法話で画像を使って紹介し説明するとっておきの分かり易い例え話なのです(同じ例えににんまり…)。 

Ⅰ-99 「高齢者75歳以上」の提言 ③

 65歳以上が高齢者という定義は今の時代に合うものではありません。現代の体力を見ればこの定義の方向性には賛成ですが、一方で高齢者になるほど個人差が大きく、年齢で区分することにはかなりの問題もあります。さらに、この提言はいつまで働くのか、年金支給開始年齢の引き上げ、社会保障関連の切り下げなどとの関係が極めて深く、社会保障制度との関係を考えず高齢者の年齢定義が一人歩きすることには賛成できません。又、政府による「全世代型社会保障」制度(政策)が検討・推進されようとしている現在、この提言を前提にした定年延長、高齢者医療負担の増加などは許されるものではありません。提言したグループ座長の「高齢者の定義を変えることで、社会福祉などがネガティブな方向に動いて欲しくない」の考えを再度確認したいものです。
 「いつまで働くのか……?」の課題。私は、「働けるうちは働いた方が良い」というのが基本的なスタンスです。しかし、「働かなければ生活できない」ことが要因で働くと言うことであればその意味合いは変わってきます。日本の場合はこの生活苦を原因にした理由が大きいようです(この件については前回のこの項で述べました)。統計的に見ても65歳以上の「老人」22.1%の人が働いています。主要7ヶ国(G7)諸国の平均は14%であり、日本に次ぐ米国が18.9%、最低のフランスは2.7%という数値なのです。日本の「老人は働き過ぎ」という現状なのでしょうか。

Ⅰ-100 平均寿命と健康寿命から「高齢者75歳以上」の提言を考える

 この平均寿命と健康寿命については、2015年5月1日付のこの項でも述べましたが、最新の日本人の平均寿命(2017年)は、2018年7月厚労省「簡易性生命表」によると男性81.09歳(前年比+0.11歳)、女性87.26歳(同+0.13歳)。これに対して健康寿命(3年ごとに発表され直近の2016年)は男子72.14歳(前回調査13年比+0.95年)で平均寿命との差は8.95年。女子は74.79歳(同+0.58年)で平均寿命との差は12.47年となります。この様に、自身で日常生活できる健康寿命の平均は男女とも75歳を下回っているのです。このことからも「高齢者75歳以上」については慎重に考えなければなりません。一方で、寿命については、平均寿命を伸ばすことは勿論ですが、いかに健康寿命を伸ばすかがより重要になります。特に女子にあっては寿命との差が12年以上あり、この期間を健康寿命延伸によっていかに短くするかがもう一つの大きな課題と言えるのではないでしょうか。