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第110回

(令和2年5月1日)
W.日々の生活の質をいかに高めるか

 

【お知らせ】
 当圓應寺観音は最上三十三観音霊場第四番札所です。今年は子年(ねどし)に当たり、札所全体として「最上三十三観音子歳連合御開帳」を5月〜10月の半年に亘って実施する予定でした。
 しかし新型コロナウイルス感染の厳しい状況の中、4月10日の札所別当会臨時総会で御開帳事業を一年延期することが急遽決まりました。多くの方がこの御開帳を機に巡礼参拝を予定されていたと思いますが、事情をご賢察頂きますよう宜しくお願いいたします。
 当圓應寺観音は、4月18日を観音祭礼日と定め、永年に亘って毎年単独の祭礼を実施してきました。今年はこの祭礼日に「連合御開帳立上げ法要」を併せ、盛大に執り行う予定をしていましたが、一年延期の決定を受け、去る18日は単独祭礼として実施したところです。
 来年は令和3年ですが、12年に一回の事業という意味合いから「令和2年最上三十三観音子歳連合御開帳」の名称で執り行います。多くの皆様の参拝をお待ちしております。

 前回のこの項では、「スーパーボランティア」として話題になった尾畠春夫さんの生き様と心を打つ“教え”について2回に亘って述べましたが、今回はマスコミ等でも何かと話題になった昨年(2019年)東京大学学部入学式での上野千鶴子氏の祝辞について述べます。
 これまでもこの項「W 日々の生活の質をいかに高めるか」の16年3月(第68回)で、東大教養部学位伝達式に於ける学部長式辞、16年8月(第74回)での信州大学入学式での学長式辞を紹介しました。
 今回の祝辞は一味違った考えさせられるものでした。その祝辞を私なりに紹介し、まとめてみます。

W−119 入学式


5月 境内の草花

 東大の入学式は、日本武道館において約3,100人の新入生、その家族などを合わせて約8,700人が出席して行われました。その式典の中で東大の卒業生でもある来賓の上野千鶴子氏(認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク 理事長)の祝辞が話題になったのです。
 氏の祝辞は、往々にしてある単なる「お祝いと今後の勉学への期待」に止まらず、入学生自身の客観的位置付けを踏まえ、社会的不公正と男女差別、歴史と生育環境等について鋭い問題提起をしたことによって話題となりました。
 次にその具体的内容を紹介し、考えたいと思います。

W−120 選抜試験は公正か

 上野氏は先ず、昨年(平成30年)の東京医科大学不正入試問題(女子学生と浪人生を差別)を取り上げましたが、この差別問題はこの大学に限らず、「文科省が全国81の医科大・医学部の全数調査をしたところ……女子学生の合格率に対する男子学生の合格率は平均1.29倍」との統計を紹介しました。その上で、氏は「女子学生が合格しにくいのは、男子学生の成績の方がよいからでしょうか?」と。
 氏は続けて、東大入学者の女性比率は長期にわたって2割の壁を越えていないことを指摘した上で、「4年制大学進学率そのものに性別によるギャップがあります。この差は成績の差ではありません。息子は大学まで、娘は短大までで良いと考える親の性差別の結果です」と。
 さらに氏はノーベル平和賞者のマララ・ユスフザイさんの父親が、娘の育て方について「娘の翼を折らないようにしてきた」との答えに、「その通り、多くの娘達は子供なら誰でも持っている翼を折られてきたのです。」と。
 このマララさんについては、「翼」を含め、同じこのWの項、2015年10月(第55回)で詳細に述べましたので、参考下さい。

W−121 東大も

 上野氏は、社会に出ればあからさまな性差別があることを述べた上で、東大にもその差別が現存するとして「学部においておよそ20%の女子学生比率は、大学院修士課程で25パーセント、博士課程で30.7%。研究職になると助教18.2%、准教授11.6%、教授7.8%と低下。これは国会議員の女性比率より低い数字です。
 女性学部長・研究科長は15人のうち一人、歴代総長には女性はいません」と実態を紹介。その上で、東大は変化と多様性に拓かれた大学でもあるとして、上野氏自身が祝辞を述べる場に立てたこと、在日韓国人の教授、高卒の教授、盲ろうの二重障害を持った教授がいることを実名を挙げて紹介したのです。

W−122 頑張れば報われる?

 頑張って東大入学を果たした新入生に、「頑張れば報われる」の本質に迫る問題提起をしました。氏は「頑張ったら報われると思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持って引き上げ、やり遂げたことを評価して褒めてくれたからこそです。世の中には頑張っても報われない人、頑張ろうにも頑張れない人たちがいます。頑張る前から頑張る意欲をくじかれる人達もいます」と。
 続けて「頑張りを自分が勝ち抜くためにだけ使わないで下さい。恵まれた環境と恵まれた能力とを恵まれない人々を貶めるためにだけでなく、そういう人々を助けるために使って下さい。そして強がらず自分の弱さを認め、支え合って生きて下さい」と。

W−123 大学で学ぶ価値

 祝辞の最後に上野氏は、これまでは正解のある知を求めてきが、これからは正解の無い問いに満ちた世界が待っているとして、「大学で学ぶ価値とは、既にある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身につけることだと私は確信しています。」そして最後に「ようこそ、東京大学へ!」と締めくくりました。

W−124 反響

 以上、私なりに上野氏の祝辞をまとめて紹介しましたが、マスコミをはじめ色んなところで反響があるようです。やはりその中身が、「お目出度うお目出度う」の定番祝辞ではなく、社会の性差別を中心にした客観的現状認識の必要、東大生だからこその要注意事項と期待が極めて具体的現実的だったからではないでしょうか。
 2019年4月25日付朝日新聞でもこの祝辞を取り上げ、その反響を紹介しています。それによると東大で「ジェンダー論」の授業を担当する瀬地山教授は「男女比は大学だけで解決できる問題ではない。上野さんの祝辞は社会に向けた投げかけであった」との見方を紹介。
 又、新入生の受け止め方は様々だったとして、「これだけ学生数に男女差があるのは問題。入学式の場で指摘してくれたのは良かった」「男女差別が残っているんだとわかり、目を覚まされたような思いだった」の一方、「説教されている気分になった。式で言うべきことか、と複数の男子が言っていた」との意見を紹介しました。

W−125 私は

 勿論私は、日本最高峰の東大頭脳を持っていませんので、東大の内側から見た意見は出せません。そのことを先ず以てお断りした上で、私なりの感想です。私はこのホームページに上野氏の祝辞を取り上げたことそのものが、この祝辞を大いに評価していることの証です。
 その評価の第一は、「民主国家」の現代日本でも男性はこうあるべし、女性はこうあるべしといったジェンダー(性別に基づいて社会的に要求される役割などの社会的性差)問題が根強くあることを指摘した上で、その問題は一般社会の問題ではなく、足下の東大そのものにもある身近で具体的な問題であることを提起したこと。第二に最高学府・東大生に「頑張れば報われる」との考えだけでなく、報われて東大生になったのは、環境のお陰であり、自分の頑張りだけではないことを指摘したこと。
 第三に能力を環境に恵まれなかった人々のために使うことの大切さを説いたこと。そして最後に、朝日新聞にもありましたが、氏の祝辞は東大生へのメッセージを通して現代日本社会全体への問題提起と思えたのです。
 尚、上野千鶴子氏に、昨年(2019)6月17日、フィンランド外務省から「日本における男女平等の推進に貢献してきた長年の業績をたたえる」として感謝状が贈られました。「平等な国」を自認する同国が昨年から平等に関する世界的論議を喚起しようと始めたキャンペーンの一環としての感謝状とのことです。

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