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第107回

(令和2年2月1日)
T.日本社会の現状 -福祉的社会学的考察-

 この項の「T 日本社会の現状」から、 「X 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で21巡しました。今月から又、 「T 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活」を見ていきたいと思います。
前回のこの項では厳しい経済生活の最後のセーフティネットと言われる生活保護、特に2017年1月に問題が発覚して大問題となった「小田原市のジャンパー事件」とその後、そして生活保護費削減とその影響について2回に亘って述べました。今回は介護事業について述べます。

T-110 介護保険法の成り立ち

三陸鉄道リアス線の旅

 私の子供の頃は、じいちゃんばあちゃんの介護は、家族でするのが当たり前、まれに施設に入ると「姥捨て山に(家族が)入れた」との会話を耳にし、「(入所者が)かわいそう」という時代でした。
 時代は変わり、少子高齢化による家族介護力の低下、一方で平均寿命の延びもあり、社会全体で見ると家族介護で対応できる時代ではなくなりました。介護放棄、被介護者への虐待や殺害、そして被介護者場合によっては介護者の自殺など、大きな社会問題となりました(残念ながら今でも問題は残っています)。
 このような背景から1997(平成9)年に介護が必要になったときに備える制度として「介護保険法」が制定され、3年後の2000年4月から施行されたのでした。

T-111 介護事業の倒産

 介護保険下の全ての問題を論ずる力は今の私にはありませんので、ここでは介護サービスを提供する老人福祉・介護事業の経営が悪化している問題を取り上げます。経営は深刻で、私たちの老後を託すはずの施設が、今大変な事情下にあり、その倒産件数が高止まりの状態なのです。
 事態を詳しく見ますと、2018年(1‐12月)の「老人福祉・介護事業」倒産は106件(前年比4.5%減)。介護保険法が施行された2000年度以降では、7年ぶりに前年を下回ったものの、倒産件数は過去3番目に多く、高止まり状況が続いているのです。
 倒産の業種別では「訪問介護事業」が45件で42.5%を占め、デイサービスなどの「通所・短期入所介護事業」が41件、有料老人ホーム」は14件(前年比2.3倍増)、サービス付き高齢者住宅などを含む「その他の老人福祉・介護事業」が3件の順となりました。
 倒産の原因は、同業者との競争で新規入所者不足によるケース、設立5年以内の事業者(倒産全体の3割超)、従業員5人未満の事業所(同6割超)という状態ですが、表面には出ていませんが社会全体が「人手不足」と言われている中で、介護職員の離職問題が水面下にあるのではないかと思います。

T-112 2019年上半期の倒産過去最多ペース → 19年全期、過去最多に並ぶ

 19年上半期の介護事業の倒産件数が、前年同期比10件増で過去最高の55件となりました。詳しく見てみるとに訪問介護の倒産数が、昨年上半期が18件に対し32件へと急増しており、倒産数が増えたのは訪問介護の倒産数の増加が大きく影響していると言えます。
 又、倒産事業所の9割近くが資本金1000万円未満、従業員の10人未満のところが8割を占めているのです。これは18年の倒産要因である介護職員不足傾向が続いているのではないかと思われます。
 加えてこれまで下半期の倒産の方が多い傾向にあることを考えると、下半期はさらに多くの倒産が増えることが心配されるのです。
 この原稿を作成しているさなかに、昨年(2019)の統計が、東京商工リサーチから1月10日に発表されました。それによりますと老人福祉・介護事業者の倒産件数は、過去最多の17年と同じ、111件に上ったということです。
具体的には、倒産は前年比4.7%増で、やはり小規模事業所が大半を占めると共に、設立5年未満の事業者が3割となっています。東京商工リサーチは倒産の背景として、人手不足と人件費の上昇を指摘しています。

T-113 低い介護報酬

 厚生労働省は15年度からの介護報酬を決定。全体の改定率は、マイナス4.48%もの大幅な報酬引き下げが行われました。中でもデイサービス、特定施設、特養はマイナス6%と、過去にないマイナス幅となり、介護事業者にとっては深刻な事態となりました。
 続いて18年度の改定で0.54%増となり倒産がやや減少したのですが、倒産傾向は高止まりから再増加になるのではないかと危惧される状況下にあるのです。
 また、少し古いのですが、厚労省平成27年賃金構造基本統計調査によると、129ある職種の中で、ホームヘルパーは第114位で年収約304万円とのことです。さらに18年7月の総務省就業構造基本調査による17年9月末までの一年間の介護離職者は9万9千人に上るとのことです。このように離職者が多く就業者が少ない介護職場、社会全体で「人手不足」がますます進む中で、現状はより厳しくなっているのではないでしょうか。
 19年8月26日、独立行政法人福祉医療機構が介護人材に関するアンケート調査を発表しました。それによると特別養護老人ホームの72.9%の施設が介護職員や看護職員が不足していると回答しています。特に介護職員の不足が深刻化している実態が明らかになりました。
 その結果特別養護老人ホームの中で12.9%の施設が利用者の受け入れを制限しており、制限施設の平均利用率は82.2%になっているのです。

T-114 国の対策は @

 政府の一億総活躍国民会議は2015年に「一億総活躍社会」実現に向け、次のような緊急対策をとりまとめました。
 @強い経済の実現 A子育て支援 B社会保障基盤強化――からなる「新三本の矢」によって、国民一人ひとりが活躍する社会を目指すとしました。その上で、政府は「介護離職者は年間10万人」と言われる中で、2015年に「20年代初頭まで『介護離職ゼロ』」を高らかに掲げたのでした。この政策によって一般家庭の介護離職者とともに、その受け皿となる介護職の(介護)離職者は減ったのでしょうか。ほとんど減っていない現状のようなのですが……。
 18年7月13日発表の総務省就業構造基本調査によると、17年9月末までの一年間で介護離職は9万9千人なのです……。

T-115 国の対策は A

 このように厳しい状況下にあってさらに、国はどのような対策をするのでしょうか。
 厚生労働省は介護職員の更なる処遇改善のため「月額8万円増」または「年収440万円以上」の職員を確保するこを目指して、昨年(2019)10月の消費税率引上げにあわせて、その税収分から1,000億円、同額の保険料分と合わせて2,000億円を予算化するとしています。
 この効果がどのようにプラスして、倒産防止と職員の待遇改善に繋がるか注視していきたいと思っています。

T-116 特養待機者32.6万人

厚労省は19年12月25日、19年4月1日時点での特養待機者が32万6千人と発表しました。前回の16年度調査より3千人弱、率にして0.9%減少したと言うことです。しかしここには問題が潜んでおり、待機者が減少した数字をそのまま歓迎して良いかどうかしっかり考える必要があるようです。
 15年度から入所対象者は「原則要介護3〜5の人」となったことを思い起こします。それ以前の待機者は52万4千人もおり、そのうち約17万8千人が要支援、要介護1〜2の人だったのです。現在特例として生活困難などの事情がある場合は要介護1〜2の人も入所対象になってはいるものの、多くの人々が入所対象外となっており、待機者32万6千人、0.9%減少をそのまま評価することは出来ないのではないでしょうか。
 加えて特養は介護報酬額が切り下げられ、「人手不足」の結果、入所定員を減らしている施設も出ているという現状なのです。これまでも延べたようにここにも介護報酬の改善が必要とされているのです。

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