住職法話

住職法話 「いかに生き、いかに死ぬか」

トップページ > 住職法話 > 第76回(X.仏教に見る祈りと教え 75〜80)

第76回

(平成29年7月1日)
X.仏教に見る祈りと教え

 前回のこの項では、醍醐天皇により空海に「弘法大師」の諡号(おくりな)が贈られたことを中心に述べましたが、今回は弘法大師にまつわる言い伝え(伝承)を紹介します。言い伝えは沢山ありますが、専門家が多くの本で紹介しておりますので紹介以外の事項についてはそれらの書籍をご覧下さい。

X-75 弘法大師にまつわる言い伝え @

平安神宮の応天門
平安神宮の応天門

 空海=弘法大師=お大師さまは、平安時代に嵯峨天皇、書家での橘逸勢(たちばな の はやなり)とともに、「三筆」と呼ばれました。又、唐の国に滞在中、皇帝から「五筆和尚」として称賛されたと言い、昔から書の名人としても有名です。ちなみに「五筆」というのは両手、両足そして口にも筆をとり、同時に書くと言うことですが、空海がいくら能筆家であったとしてもそれは不可能なのでは…。ということで「五筆」は楷書、行書、草書、篆書(てんしょ。現代でも印鑑によく使われている字体)そして隷書(れいしょ。現在でも日本銀行券に使われ印鑑にもよく使われている)の五つの書体を見事に書くことを言い表したのではないかという考えもあるようです。

X-76 弘法大師にまつわる言い伝え A

弘法大師(圓應寺所蔵)
弘法大師(圓應寺所蔵)

 ところで、その腕前を称え、「弘法筆を選ばず」という有名なことわざがあります。どんな筆でも素晴らしい字を書いたのでしょうか。 一般的には能筆家と言われる人ほど素晴らしい用具(筆)を用いていると思いますが、空海の腕前は、並みを越えていたのでしょう。 ところが、空海自身は淳和天皇(じゅんなてんのう)に毛筆を献上した際の文面で「能書は必ず好筆を用いる」と言っているというのです。ヒョッとして「弘法も筆を選ぶ」のかも…。
 ちなみに私は、能筆家にはほど遠いのですが、新しい筆と古い筆では出来映えが全く異なりますし、毛が先まで揃い腰がしっかりして弾力性のある良質な筆は気持ちよく筆が進むのです。

X-77 弘法大師にまつわる言い伝え B

弘法大師修行像 弘法大師修行像

 ところでもう一つ「弘法も筆のあやまり」があります。「今昔物語」にある話ということです。 その内容は、空海が平安京の応天門に掲げる額の文字を書くよう勅命を受けた際の出来事として語られています。空海は『応天門』と大書して、 その額を応天門に掲げましたが、気が付くと『応』の文字の『心』の点が一つ足りなかったというのです。 それを見た人々は、「まさかあのお大師さまが漢字を間違えるとは・・・」と。
 しかし、それに対して空海は慌てることもなく筆を取り、掲げた額に投げつけたというのです。 筆は抜けていた点の部分に見事に命中、『応天門』額が完成したということです。
 どんな達人でも間違うことがあるという例えに使われるこの「弘法も筆の誤り」。これは、空海が書き間違えたことからきていると言われています。
 さてその応天門、貞観6年(866)の「応天門の変」によって焼失してしまいました。 現在の平安神宮応天門は、その平安の応天門にならい明治24年に建てられたものですが、残念ながら額にある「応天門」の字は空海のものではありません。

X-78 弘法大師にまつわる言い伝え C

春の総本山智積院金堂
春の総本山智積院金堂

 御大師さまに関する伝説は、全国に数千もあると言われています。事実、私が住職である当圓應寺観音のご本尊様(秘仏)も「弘法大師作といわれている」と今日まで伝えられているのです。 歴史的事実としてお大師さまが当地までこられたという事実は確認されていないと思うのですが……。 これは、全国を勧進して廻った高野聖が弘法大師と間違われたことや余りにも偉大な御大師さまにあやかりたいとの想いがそのような伝説を呼んだのでしょうか。
 お大師さまに関する伝説は、その他にも寺院建立、仏像などの彫刻(圓應寺も)も多々ありますが、お大師さまが錫杖(杖状の物)で 地面を突くと井戸水や温泉が出たという伝説も全国に数多くあります。当山形県の温海(あつみ)温泉もその一つと言われています。

X-79 弘法大師にまつわる言い伝え D

密厳流遍照講ご詠歌用具
密厳流遍照講ご詠歌用具

 一方で、平仮名を作ったのはお大師さまという伝承がありますが、現在では俗説であると考えられています。 又、いろは歌(いろはにほへとちりぬるを……)の作者もお大師さまという言い伝えもありますが、これについても諸説有り、確定したものではありません。

X-80 弘法大師にまつわる言い伝え E

冬の弘法大師修行石像
冬の弘法大師修行石像

 この他、うどんや「灸」(鍼と灸の「灸」)は弘法大師が唐から伝えたなどの言い伝えがあります。 先述しましたようにお大師さまの伝説は非常に多く、専門家から多くの本も出されておりますので詳細はそちらの方を参照いただければ幸いです。
 言い伝えの最後にチョット変わった伝承「生麦大豆二升五合(なまむぎだいずにしょうごんごう)」を紹介します。 これは民間に伝わった呪文で、「これを唱えれば難事を避けることができる」というものだそうです。 お大師さまの御宝号「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」をもじったものだそうですが、お大師さまの偉大さがここにも現れている想いです。

トップページ 住職法話 第76回(X.仏教に見る祈りと教え 75〜80)