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住職法話 「いかに生き、いかに死ぬか」

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第69回

(平成28年12月1日)
V.有限の人生そして「死」を意識して

 この項については前々回から「尊厳死」、「自然死」、そして又「安楽死」等の死に方について述べ、前回は「延命治療 〜私の養母の場合〜」について述べました。今回はその3回目として「延命治療」について述べます。

V−68.延命治療を断るには @


ドイツ・ライン川下り

 「延命治療」を断る人が増えていると言われていますが、これまで述べてきたようにいざその場になるとご家族関係者、医療担当者はその判断に困ってしまうことが多々あります。ご本人の意志の確認がなかなか出来ないからです。その際、事前にご本人が「延命治療拒否(不要)」等について文書化している場合は明快なのですが、文書化している人は多いとは言えません。2014年厚労省の「人生の最終段階に於ける医療に関する意識調査」によると、「『治る見込みがなく、死期が近いときには延命医療を拒否することをあらかじめ書面に記しておき、本人の意思を直接確かめられないときはその書面に従って治療方針を決定する。』(リビングウィル)という考え方について」文書化している一般国民は僅か3.2%、60歳以上でも6%に過ぎません。かく言う私も家族には話しているものの文書化は未だなのです。

V−69.延命治療を断るには A

 それでは文書化の内容はどのようなものが必要なのでしょうか。先ず文書の専門家である公証役場の専門家に依頼する方法もありますが、ご自身でも十分作成できます。
文書のタイトルは「延命治療拒否について」などでしょうか。内容ですが、

  • @自身が文書作成に当たり、分別がつく健康状態である事が前提となります。
  • Aできる限りの治療を受けた上で、単に死期を延ばすだけの延命治療を断り
  • Bいわゆる植物状態になった時は生命維持装置を外すこと
  • C但し、痛みの緩和のために緩和医療を行って欲しいこと
等が必要とされます。

V−70.延命治療 〜もう一つの医療現場〜 16.1.19NHKテレビ「クローズアップ現代」@

 医療の実際の現場では担当医師の混迷があります。2016年1月19日の標記NHKで医師の混迷が放送されました。その放送では延命治療を望まない患者に対して、望み通りにすることについて、「『安楽死』ではないと言い切ることは出来ないかも知れない」 (現場医師)という判断の難しさに遭遇するのです。以下このテレビの内容を基に「終末期鎮静」について考えてみることにします。
 このテレビでは、終末期鎮静を巡る在宅末期がん患者の、家族、医師間の葛藤について解説しました。それでは「終末期鎮静」とは具体的にどのようなことなのでしょうか。
 それは末期のがん患者に鎮静剤を使い、眠らせることで苦痛を取り除くことで、「持続的な深い鎮静」とも呼ばれます。鎮静剤を使用した後は多くの場合、水分や栄養の補給等の「延命措置」は行わず数日から一週間ほどで死に至ることから、「安楽死との区別が出来ないのではないか」との考え方もあると言われています。
 そのため日本緩和医療学会が2005年に発表した「終末期鎮静の主な要件」(日本緩和医療学会のガイドラインより抜粋・NHK)として次の事項を上げています。

  • @ 耐え難い苦痛がある
  • A 他に苦痛を取る方法がない
  • B 死期が迫っている(2〜3週間以内)
  • C 本人かつ家族の同意

 但しこの要件は、今国が推進しようとしている在宅での療養を念頭に作られたものではないということです。
 全国的な詳しい実態は不明ですが、2015年の大阪大学の調査では、在宅でなくなった約7人に1人は「終末期鎮静を受けていた」との報告もあるということです。

V−71.延命治療 〜もう一つの医療現場〜 16.1.19NHKテレビ「クローズアップ現代」A

 同じ番組では、「終末期鎮静」の次のような具体的事例を紹介しました。
 「最後は自宅で過ごしたい」と退院のケースを取り上げました。
この事例では激しい痛みに苦しむこともあったのですが、家族の看病も出来ることは限られ、体をなでてあげることしか出来ない状態でした。医師はモルヒネなどによる治療を試みるも痛みを取り除くことは出来ない状態に。  ↓  妻は何とか痛みを取る方法は無いか医師に尋ねます。医師は「痛みが取りきれないと言うことが分かってきたら寝られるようにしてあげること」(終末期鎮静の提案)。
痛みを感じないよう鎮静剤で眠らせ、そのまま最期を迎える方法は「治療としては本当に最後の切り札」なので出来ればしないで穏やかな状態で患者を見送りたいのが本音」(医師)。
「でも必要となる人はどうしても出てきてしまう」(同)として医師の混迷をも紹介しました。  ↓ 同医師は「余命一週間未満と診断」 家族から「直ぐ来て欲しい」の連絡。4時間以上の激しい痛みが続いていた。痛み止めの別の薬を使うも効果無し。同医師、もはや手だてがないとの判断に  ↓ 患者本人に「終末期鎮静を希望するか尋ねる」  ↓ 「この痛みをかわす方法で手続きをしたい」(本人)。同医師「もう待てない?」。「待てない 難しいな」。患者本人と家族も鎮静に同意  ↓ 鎮静の準備(患者が家族と交わせる最後の時間に)  ↓ 投与開始 眠りに入る 「もう痛い痛い言わないネ」(家族)  ↓ 鎮静を初めて三日後死亡。 「ご臨終です お疲れ様でした」「お世話になりました」「後悔ないですし、みんなも心の準備も出来たし、主人もそういう判断、 自分がそれを決めたし、間違ってなかったと思う」

 終末期鎮静は在宅だけではなく、入院中の実態でもあります。延命治療に対する自分の考えだけでなく、終末期鎮静に対する考えもまとめておく必要もあるのです。

V−72.延命治療 〜もう一つの医療現場〜 16.1.19NHKテレビ「クローズアップ現代」B

 2015年、NHKと日本在宅ホスピス協会が実施したアンケートによると、在宅の医師の4割が過去5年間に終末期鎮静を行ったことがあると回答。その内の2割は「積極的安楽死とあまり変わらないと感じることがある」と。限られた関係者の中で判断しなければならないという、在宅ならではの課題も浮き彫りになりました。日本では積極的安楽死は違法行為です。終末期鎮静と積極的安楽死の違いは次のように整理されます。

  • @ 終末期鎮静   鎮静剤を使用し、苦痛緩和を目的
  • A 積極的安楽死   致死性薬物を使用し、「死亡」を目的

 多くの医療従事者は区別して考えているのですが、薬を投与した後患者は命を終えるという側面を見ると両者はよく似ているとして議論が続いて来ました。
 日本緩和医療学会は終末期鎮静を行う際の要件をより厳しくしようと検討中とのことですが、病院での使用を前提としたもので在宅を前提としてはいないと いうことです。今後は在宅でも複数の医師が関わるなどの対策を講じることが必要になります。

V−73.延命治療 〜もう一つの医療現場〜 16.1.19NHKテレビ「クローズアップ現代」C

 ところで延命治療にはもう一つの側面があります。在宅の患者さんの症状が急性増悪した場合、家族等の関係者の多くは救急車を要請します。救急隊と搬送先の病院は蘇生・延命治療等の応急処置をはじめ懸命な治療を行うことになります。この様なケースの場合は、多くの場合本人の意思確認が出来ない中で延命治療が行われることになります。
 延命治療に関する意思確認が出来る段階で「私は延命治療は要らない!」と表明していた患者さんも結果として延命治療を受けてしまうことになってしまうのです。急性増悪の場合の家族関係者は、慌てて救急車を要請してしまうこともありますが、かかりつけ医に連絡することを第一にすることが大切です。但し、急なことで慌てたり、夜間であった場合などは即救急車ということも十分考えられます。その対策として在宅医療に関わる医師、看護師そして救急隊が患者情報を共有することが必要となります。2017年度から厚労省はこの様な仕組み作りを先導・支援する方針と言われます。

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