いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第169回

有限の人生そして死を意識して
【「いのち」の考察】186〜191

「ガン末期そして終活を考える」

前回は、人口減少と進む高齢化社会。特に3年に及ぶコロナ禍の中で、遺骨埋葬の多様化、墓終いそして法要と葬儀の変容が顕著になり、この状況をまとめ、検討しました。

今回から2回に分けて2024年の一年間、本堂での年回忌法要時に、参拝者の方々にお話しした(説法?)内容を一部補正して掲載します。

尚、本堂の語りでは、プロジェクターを使い、スクリーンに映像を映し出し、ポインターを使いながら話を進めています。今回はその内容の1回目です。(掲載している画像は本堂の画像そのままです)

Ⅲ-186 ガン末期そして終活を考える

山形県立中央病院

 私は、山形県立中央病院を定年退職した2004(平成16)年以来、今日まで、年回忌法要時には必ず私なりのお話をさせて頂いています。その内容の基本テーマは、このホームページ同様「いかに生きいかに死ぬか」です。このテーマを基本に、毎年切り口を変えてお話をさせて頂いています。これまでは、お釈迦様、仏教の歴史と教え、弘法大師等々についてお話をしてきましたが、この24年の一年間は思い切って現実の生々しい内容を取り上げ、「(日本人の)死因第一がん、その末期に焦点を合わせた上で、終活を考える」としたのでした。

Ⅲ-187 死因第一位の悪性新生物

 皆さんご承知の通り、私達日本人の死因第一は悪性新生物、つまりガンです、二人に一人はガンになること。そして四人に一人はガンで亡くなる時代です。したがって日本人の死を語る場合、ガンを除いて語ることは出来ません。そこでこのガンを取り上げ、ガンの末期に焦点を当てると共に、終活を考えることにしました。

 尚、この図の通り、死因の第二位は心疾患、第三位は老衰、第四位は脳血管疾患ですが、私の若い頃の死因の第一位は脳血管疾患、二位は心疾患そして第三位が悪性新生物の順でした。そしてこの序列は長い間続いてきたのですが、現代医学の進歩はめざましく、特に脳血管疾患と心疾患の予防を含めた医学の進歩、そして何より平均寿命の延び(男子81歳、女子87歳)によって相対的に悪性新生物による死因が第一位、そして老衰が第三位になって来ました。

Ⅲ-188 ガンによる痛みと緩和ケア医療

一般病棟に隣接して一階の手前が緩和ケア病棟

 2020年国立がんセンターはガンで亡くなった人の家族に「終末期の療養生活に関する実態調査」を行いました。それによると「亡くなるまでの一ヶ月間に患者が痛みを感じていた」人が40.4%という調査結果でした。痛みの程度はいろいろあると思いますが、私は4割ほどの人が痛みを抱えて亡くなっていく結果を見て驚いてしまいました。その理由については後述します。

Ⅲ-189 ガンによる痛みと緩和ケア医療

病棟から公園に

 近年、痛みを緩和する「緩和ケア病棟」やホスピスが全国的に創られています。1990(平成2)年時はたった5カ所で120床でしたが、2023(令和5)年には463カ所、9536床と飛躍的に増加しました。つまり緩和ケア医療は、今や特別な医療ではありません。当たり前の医療になっているのです。加えて私が在職した山形県立中央病院に例を取りますと、緩和ケア病棟だけで緩和ケア医療をやっているわけではありません。勿論、緩和ケア病棟では専門に緩和医療を実施していますが、一般病棟にも多くのガン患者さんが入院しており、その患者さん達にも緩和ケア医療を実施しているのです。又他の病院、地域医療界全般の「緩和医療」もますます盛んになって来ているのです。にもかかわらず4割の方が痛みを抱えてという高い数字なのです。

Ⅲ-190 患者さんにとって痛みの緩和は・・・

緩和ケア病棟の廊下

 緩和医療は「まだまだ」の実態が浮かび上がりましたが、ガン患者さんにとって痛みの緩和はどういう意味を持つのでしょうか。大分昔のことになりますが、在職中に緩和ケア病棟で仕事をしていた頃の体験です。緩和ケア病棟ですから、入棟(入院)して来る患者さんは相当程度の痛みを抱えている方々です。入棟当初の患者さんは、顔の表情は暗く、目の輝きもありません。患者さんによっては精神的にうつ状態になっている方もおられます。ところが、緩和ケアの専門医がその方のガンと相談しながら医療用麻薬などを調整し投与していくことによって、(残念ながら全員ではありませんが)患者さんの表情や目の輝きがまるで変わって来るのです。患者さんによってはガン疾患そのものが治ったのではないかと思われるほど元気になる方もおられるのです。

 つまり、ガン患者さんにとってその痛みの緩和がいかに大切なことであるかを教えられるのです。ガンによる痛みの緩和は、身体的痛みの緩和のみならず、精神的痛みをも和らげ、患者さんのQOL(生活の質)の向上をもたらすいわばガン治療の原点とも言えるものなのです。

Ⅲ-191 何故40%の患者さんが痛みをかかえて・・・?

病室

 それでは何故、4割もの患者さんが痛みを抱えたままで亡くなっていくのでしょうか。その理由を私なりに考えてみます。

① ガン専門医として医療の第一線で活躍されている医師の中には、痛みの緩和は狭い意味のガンに対する医療(治療)にプラスした別の医療と捉えてしまい、「自分の仕事ではない」と考える医師がいること。

② 人手不足、働き手不足が叫ばれる中にあって、医療の現場でも医師、看護師を中心に定員が埋まらない人手不足状態にあります。緩和ケア医療は、患者さんへの度重なる面接・面談を中心に、絶え間ない看護・観察が必要とされます。このような状況下にあって緩和ケア医療の必要性を十分理解していても現場の現実からなかなか取り組めないという実情があります。

③ ②の状態もあり、医療機関にとって緩和医療は余りペイしないと言われています。