いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第162回

日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】180〜185

「少子化問題について」

 この項の「Ⅰ日本社会の現状」から、「Ⅴ仏教に見る祈りと教え」まで、先月で32巡しました。今月から又、「Ⅰ日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活」を見ていきたいと思います。前回は日本の経済ゃ景気関係について、私の視野に入った項目を取り上げましたが、今回は以前にも何回か触れましたが、日本の少子化問題に加え、隣国の韓国と中国の少子化問題について考えます。

Ⅰ-180 出生75.8万人過去最少。婚姻数、戦後初50万組を割る

岩手県厳美渓

 厚労省が24年2月27日発表した23年の人口動態統計(速報)によると、23年に生まれた外国人を含む子供の数は、75万8631人で8年連続の減少で過去最少となりました。又、婚姻数は48万9281組でしたた。

 出生は前年比5.2%(41万1097人)減。国立社会保障・人口問題研究所が23年4月に推計した「2035年に75万人を割って75万5千人になる」との予測より12年早い事態となってしまいました。

 婚姻数は前年比5.9%(3万542組)減少で、50万組を下回るのは戦前の1933年以来となり、今後の出生数に大きな影響があるのではないかと言われています。

※その後、24年6月5日発表の厚労省「人口動態統計」によると、女性一人が生涯に生む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は、1.20で過去最低。特に東京都は0.99の低さに。出生数は、過去最少の72万,7277人(前年比4万3,482人減)となり、出生率と出生数ともに8年連続のマイナスになったことが判明。同年2月の速報値より減少幅が大きくなりました。
又、24年7月24日発表の総務省人口動態調査による、同年1月1日時点での外国人を含む総人口は1億2488万5175人で、前年比、約53万2千人下回りました。日本人に限ると約86万1千人の減少(0.70%の減)で、1968年の調査開始以来、最大の減少幅になりました。反対に外国人は、全都道府県で増え、初めて300万人を超え、332万3374人(前年比32万3374人増)となりまた。「外国人の約85%は生産年齢人口で、働き手として日本経済を下支えしている」(山形新聞7月25日)ことになります。

Ⅰ-181 少子化、婚姻減少の原因は ①

 このような少子化と婚姻の減少について、朝日新聞は24年2月28日付で次のように伝えています。

①「コロナ禍で結婚する人が減ったことが一つの要因だ。コロナ禍から平時に移りつつある2023年も婚姻数が大きく減ったことで、専門家は出生数も減少傾向が続くとみる」と。

②日本総研藤波匠・上席研究員「若い人たちの結婚意欲がかなり低下している」と問題提起。具体的には(21年の出生動向基本調査による)18~34歳の独身者で「一生結婚するつもりはない」と答えたのは男性17.3%(前回調査の16年から5.3ポイント増)、女性は14.6%(同じく6.6ポイント増)。さらに「結婚したら子供はもつべきだ」と考える男性は55.0%、女性は36.0%で前回調査より20~30ポイント程度減少している背景を挙げ、同氏は「結婚が幸福度を下げる、そうした考え方があるのも事実」と。かなり深刻な事態なのです。

Ⅰ-182 少子化、婚姻減少の原因は ②

 同紙は続いて「女性に偏る負担結婚観変化」と題して、次のように述べています。お茶の水女子大・永瀬伸子教授の学生談として「子どもを持つと収入や自分の自由な時間を失ってしまう」「結局は女性のみが子育て責任をとらないとならない」と。さらに同教授は女性に様々な負担が偏る現状を挙げて「日本では子育ての負担も、仕事との両立の負担も、離婚した場合の貧困の負担も、女性にくる。若年層が子育ての魅力を感じられる社会の構築が、高齢化がすすむ日本の未来には必須だ」と。

 一方、先の藤波氏は政府の、両親が14日以上の育休を取得した場合、給付額を手取り8割相当から10割相当に引き上げる政策を評価する一方で、児童手当の第3子以降が月3万円に増額されたり、3人以上の子どもがいる世帯は大学授業などが「無償化」されたりする施策に関して「多子世帯の優遇策は、少子化対策としてミスマッチの印象。経済的理由から結婚や出産を控える『第1子にたどりつけない層』へのアプローチが重要だ」と。

 そうです!低賃金、非正規労働などで不安定な生活を強いられ、したくともできない結婚、持ちたくとも持てない子供に悩む若者への根本的対策こそが必要なのです。既に結婚し第2子を越える施策は不要とまでは言えないものの、先ずは結婚できる生活、第1子が持てる生活への施策こそが求められるのです。私は的外れとさえ思うのですが、如何でしょうか?

Ⅰ-183 抜本的対策とは

 この少子化問題について、さらに朝日新聞は翌日(24年2月29日)付の「論壇時評」の欄で「人口減少持続可能な社会とは」と題して、数人の専門家の見解を掲載しました。その中の一人、労働経済学の永瀬伸子氏(前日紙にも登場)の見解を紹介します。

 氏は「正社員とパートの賃金格差解消こそ最重要課題」とした上で、女性だけ賃金が低いままの現状打開が必要だとして次のように述べています。「現在、若い女性の少なからぬ割合が、子どもを持つことをリスクと考えている。18~34歳の3分の1が結婚せずに仕事を続けるだろうと考え、4割近い女性が子どもを持たない未来を予想している。その一方、約8割の女性は何らかの形で子どもを持つことを望んでいる。ギャップの背景には収入を失うことへの懸念や結婚・子育てに関するネガティブなイメージがある。若年層の子育て不安を解消するには、出産後の支援とともに、雇用格差の解消という抜本的な改革が不可欠だろう」と。

Ⅰ-184 韓国の出生率0.72

 韓国の2023年の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に生む見込みの子供の数)、0.72に。大問題になっている日本の少子化(22年、1.26)より更に深刻な数字です。出生率が前年を下回るのは8年連続。1を下回るのは6年連続で経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国では韓国だけという深刻な事態です。

 この韓国の問題は、我が国の少子化に共通した問題点があるとして、2024年2月29日付朝日新聞は「住宅高騰・学歴社会『生きづらさ』重なる日本」と題し次のように述べています。韓国の少子化の背景として「長時間労働などによる子育てと仕事の両立の難しさや、子育ての負担の女性への偏りなどは日本とも似通う。初婚年齢の平均は男女とも30歳を超えており、晩婚化が進んだことも一因だ。韓国では全人口のほぼ半数がソウル首都圏に暮らす一極集中が続いており、住宅価格が高騰した。日本以上と言われる学歴社会と教育熱心も、少子化を加速させる大きな要因だ。社会の『生きづらさ』や若い世代の将来不安などが子どもを持つことをためらわせる状況は、日本とも重なる」と。隣国・韓国の超少子化問題は、我が国の少子化問題に多くの点で共通しています。政府の「異次元対策」(岸田首相、自民党総裁選立候補辞退とのことですが)を期待したいものですが・・・・。

Ⅰ-185 中国でも少子化問題

 少子化問題は、もう一つの隣国、中国でも起きています。2024年3月10日付、朝日新聞は次のように伝えました。「中国で結婚するカップルが減り続けている。子育ての経済的な負担への不安も要因だ。全国人民代表大会では、『出産、子育て教育の負担を減らす』ことが盛り込まれた。中国の2022年の婚姻件数は683万組。9年連続で減り、ピークだった13年と比べると半減した。23年の出生数は前年比54万人減の902万人で、7年連続で前年を下回った」と。さらに同紙はその要因として上記に加え、大都市は子育てのコストが高すぎること、家事の負担が圧倒的に女性にのしかかることなどを挙げています。

 ここにも我が国と似た要因があるのではないでしょうか。私はこれまでも触れましたように、妻と同程度とまではいきませんでしたが、子育て時代はかなりの部分で子育てに参加してきました。共働きとしては当然と考えていたからです。男女平等が叫ばれている中、国の対策とは別に、家庭内で出来ることも多々あります。頑張りましょう!