いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第152回

日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】167-172

「気になる数値」

 この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、 「Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で30巡しました。今月から又、 「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活」を見ていきたいと思います。前回のこの項では原発関係とチョット気になる数値を取り上げました。今回はその2回目です。

Ⅰ-167 「将来必ず結婚すると思う」若者は16.5%。

 日本財団が2022年12月に、17~19歳の若者にインターネットで調査(回答1000人)した結果、将来結婚したいかどうかの問いには、「したい」43.8%、「どちらかと言えばしたい」が21.7%。結婚に肯定的思いの若者が65.5%に対して、より現実的に「将来必ず結婚すると思う」若者は僅か16.5%。「多分すると思う」34.5%、計51%となりました。結婚願望はあるものの現実はなかなか厳しい思いを持っているのです。その思いの背景は男女とも「金銭的不安」を上げています。

Ⅰ-168 その対策は?

 現代日本の最大の社会問題である少子化がここにも現れています。著名な国会議員が「少子化の原因は晩婚にある」と述べ、かなりのひんしゅくをかいました。一方で政府は「異次元の少子化対策」を唱え、23年4月の統一地方選、国政補欠選挙を前にした同年3月31日、その対策の「試案」を公表しました。項目は多岐にわたりますが、この「試案」は今後の論議のためのたたき台であり、施策のための財源の裏付けがありません。そして何よりも問題なのは、少子化対策の根本的対策である若い世代の所得(賃金)向上に向けた対策が抜けていることです。今後首相が議長を担う「こども未来戦略会議」と国会での議論をしっかり見守りたいものです。結婚後のばらまき(?)施策よりも若者の結婚願望に根底から応えられる政策を期待せずにはおられません。

Ⅰ-169 相続人なき遺産 ① ~国庫に647億円~

 2023年1月23日付朝日新聞一面に「相続人なき遺産 647億円 増える『お一人様』国庫へ10年で倍」の見出しが躍りました。さらにこの内容を補強する形で3面の半紙を割いた記事が掲載されました。日本社会の現状を表す一つの内容ですので、この記事を紹介すると共に、問題点を考えてみたいと思います。

 その記事によりますと身寄りのない「お一人様」の増加や不動産価格の上昇などを背景に、行き場のない財産が10年前の倍近くに増え、2021年度の総額は647億円に上ったとのことです。

 その相続人も遺言もない遺産は、利害関係者の申し立てによって家庭裁判所に選任された「相続財産管理人」が整理する事になります。管理人は未払いの税金や公共料金などを精算し、相続人がいないかを確認します。その上で一緒に暮らしたり身の回りの世話をしたりした「特別縁故者」がいれば家裁の判断により、財産を分与します。その残りが国庫に納入されることになるということです。

 このような相続人のいない遺産が増える要因として、「単身高齢者の増加や未婚率の上昇が上げられる」としています。これを裏付ける内閣府調査を紹介し、「65歳以上の一人暮らしは20年時点で671万人、10年前の1.4倍。30年には800万人に膨らむ見通し」とのことです。さらに国立社会保障・人口問題研究所の調査で「50歳時の未婚率は20年時点で男性28%、女性18%と上昇が続いている」ことを紹介しています。

Ⅰ-170 相続人なき遺産 ② ~早めに遺言書を~

 このような問題に対して同紙は「早めに遺言書を」と題して、二人の識者の見解を次のように伝えました。相続管財管理人の経験がある吉村孝太郎弁護士は「独り身で遺言もない高齢者の増加に加え、不動産価格の上昇で土地などの処分額が膨らみ、遺言額が押し上げられている」と。さらに相続や終活に詳しい明石久美行政書士は「相続人がいない『お一人様』は思い立ったらすぐ、元気なうちに遺言書を作るべきだ」と。実際に遺言書を作る途中で亡くなるケースや判断能力の低下で遺言書を作れなくなることもあることを紹介しています。

 さらに同紙の3面では、ある資産家の「お一人様」の死を「『国には渡さない』と語っていたのに 『元気だから』と遺言書を先送り 20億円超す遺産、多くは国庫へ」との見出しで、遺言書の重要性を具体例を通して紹介しました。それを受けて遺言づくりに詳しい竹内亮弁護士の見解を「相続人のいない人が遺言を書かないのは『全財産を国庫に遺贈する』という遺言を書いた状態と同じだ」と紹介。

 又、私が見解をよく取り上げ紹介している社会学者の上野千鶴子氏は「みなさんがなぜ遺言書を書かないか、不思議で仕方ありません。あんな政府に遺産を取られたくないし、防衛費なんかに使われたらとんでもない。自筆の遺言なら簡単。習慣としておやりになったらどうですか」と。

 当の私には幸いにも相続人がおりますので、国庫に納入とはなりませんので、一応は安心なのです・・・・。皆さんはどうでしょうか。

Ⅰ-171 増える無縁遺骨 ①

 2022年12月30日付朝日新聞一面に「増える無縁遺骨 弔う人なく」の見出しが躍りました。この問題については以前も少し触れましたが、この朝日の記事を紹介すると共に再度考えたいと思います。

 記事によると「身寄りがなく経済的に困窮して亡くなった人の葬祭費を行政が負担するケースが増えている。厚生労働省によると、2021年度は全国で4万8622件と過去最多になり、この10年で約1万件増加した。地域や血縁のつながりが薄れる中、高齢化で年間140万人が亡くなる『多死社会』が到来しており、引き取り手のない『無縁遺骨』が増えている」と。その上で更に考えさせられるのは「かつては無縁遺骨のほとんどが身元不明者だったが、今では9割以上、身元が分かっているが引き取り手がない人だ」との談話です。

 このような現状について生活文化研究所代表理事の小谷みどり氏は「少子化や高齢化で頼れる親戚がいない人が増え、親戚だけが担う仕組みは破綻している」との見方を紹介しています。

Ⅰ-172 増える無縁遺骨 ②

 朝日新聞はさらに、2面で「身寄りなく いても頼れず ひとりの死」「活躍続けた俳優 自治体が火葬」との見出しで、かつて国際派俳優として大活躍した島田陽子さんの病院一人死、区役所が荼毘に付したことを紹介したのです。アノ大俳優の方でも当初は「無縁遺骨」となったのです(島田さんの遺骨はその後、知人が引き取ったとのことです)。

 その後、2023年3月28日総務省実態調査の発表によると、21年10月時点で全国の市区町村で管理・保管していた無縁遺骨は、約6万柱もあったとのことです。その上、身元不明の遺骨は約6千柱で、残りは身元が判明しているものの引き取り手がない遺骨とのことです。

 65歳以上の単身高齢者は年々増加して671万人。若者の結婚が進まない現状、相続人なき遺産の増大・・・・・現代日本社会の一面なのです。