いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第150回

日々の生活の質をいかに高めるか
【生活の質の考察】162〜166

「テレビ、新聞報道で、私なりに注目したもの」

 前回のこの項では、コロナ禍におけるある檀家さんの葬儀について述べましたが、今回はテレビや新聞で取り上げられた中で、私なりに注目したものについて触れます。

Ⅳ-162 「テレビ寺子屋」より ①

 2019年12月1日、フジテレビ系の「テレビ寺子屋」で「健康寿命を延ばしましょう」が放映されました。今回の講師は、弁護士でNPO法人長寿安心会の代表も務める住田裕子氏でした。氏は最初に講演会場の参加者に「皆さんに質問です。次の数字は何を表しているでしょう?」と問いかけ、【男性】72・81・87【女性】74・87・93の数字を示します。そして氏は「この数字は順番に『健康寿命・平均寿命・死亡最頻値』です」と明かした上で、「平均寿命より長く生きるのが現実、そこまでどう生きるか、健康寿命を延ばすかが課題」と説きます。

 その上で、ご自身の体験を披露します。「母は90歳になります。母が87歳になった時、私は『平均寿命まで生きたからもういい』と思うのではなく、女性が最も多く亡くなる年齢はまだ先だから、そっちを意識して生きないとだめ。と母に言った覚えがあります。大事なのは「死亡最頻値」を意識して生きる事です」と。

Ⅳ-163 「テレビ寺子屋」より ②

 住田氏は続けます。「長く生きさえすればいいというだけではありません。健康に生きなければならないのです。健康寿命をどのように延ばし、人にお世話にならず、死亡最頻値を迎える事ができるかが重要になってきます」と説いた上で、、注意すべき疾病として、認知症を第一に上げ、女性に多い骨折、男性に多い脳血管障害もあげました。その上で、心がける食生活として「まごはやさしいな」との言葉を紹介しました。この言葉は食生活指導などでよく使われるものですが、その意味として、

「ま」は豆。「ご」はゴマ。「は」はワカメなどの海藻類。「や」は野菜。
「さ」は魚、特に青魚。「し」はシイタケ等のキノコ類。「い」はイモ類。
「な」は納豆等の発酵食品。
「これらの食品を意識して食べると認知症予防に繋がるようです。」と結びました。

 私は日常食生活で、この「まご……」を全てクリアしているわけではありませが、妻の努力でそれに近い食事が出来ているような気がします。でも住田氏の言うとおり、「まご……」をより意識して摂る必要があるのかも知れません。そうすることによって免許手続きを忘れることなく更新できたのかも……?(2020年10月、21年3月参照ください)。

Ⅳ-164 NHKテレビ「おしん」から

 もう一つ、テレビからです。2019年から一年間に亘って2020年3月21日まで、NHKBSプレミアムで、かつての名作「おしん」が再放送されました。おしんが幼少時に、ここ山形を舞台にしたテレビであったため、殊の外山形県人にとっては忘れられない名作として記憶に残っているドラマであり、私自身実に懐かしく一年を通して再視聴しました。

 このドラマの最終段階で、おしんが旧友・浩太に述べた語りが、非常に印象に残りました。その言葉は「豊かさに慣れてしまったら本当の幸せは分からないから不幸だ。私たちは白いご飯一杯、コッペパン一個にも幸せになれた時がありました。でも今はもうそれを忘れてしまっています。それをもう一度思い出すためにも……」と。これは、山形の小作貧農の子供として生まれ、極貧をを経験した上で、時代の流れでスーパーマーケットを経営するまでになったものの、社長として代った息子の金欲から経営を広げすぎ、一から出直さざるを得ない状況に陥った長男を含めた自らの家族に対しての想いでした。

 このドラマは、昭和58(1983)年4月から一年間放送されたもので、36年も経っての再放送でした。時代の流れの速さから考えると昔々のドラマなのですが、おしんのこの言葉が今の私の心に染みてくるものがあったのです。豊かさはけして悪いものではありません。但し、欲が欲を呼び、もっと~もっと……と強欲が限りなく拡大する弱さを私たちは抱えています。日々の生活の中にこの自覚を持たなければならないことを、おしんは教えてくれているような気がしています。

Ⅳ-165 NHKテレビ「プロフェッショナル-黒柳徹子との10日間-」から

 2020年9月22日「芸能界の生きる伝説」として黒柳徹子さんが10日間の取材に応じ、その模様が放映されました。黒柳さんは日本でテレビ放送が始まった時から今日まで第一線で活躍しており、正に「生きる伝説」にふさわしい方です。その長い道のりは、単なる芸能人としてだけではなく、1984年からはユニセフ親善大使として36年間(放送時点)活躍しています。このように長期に亘って親善大使を務めてこられたのも、就任当時のユニセフ事務局長が語ったと言われる、黒柳さんの「子どもへの愛と、障害を持つ人々や環境への広範囲な彼女の活動と実績」がその土台となっているからなのでしょうか。

 さて、この放送の取材初日に、インタビャーが「(取材最終日に)『プロフェッショナルとは?』の質問をします」とことわり、最終日にその答えを求めました。黒柳さんは「高度の知識と技術を持って仕事を継続してやっていくこと……と思ったんだけど。情熱を持って熟練した仕事を継続してやっていける人……それをプロフェッショナルと言う」と。実に意味深な言葉です。翻って私自身は、住職暦40年、情熱は持っているつもりなのですが、「熟練」となると恥ずかしい限りです。日々の精進努力を叱咤激励された思いです。

 最後にその番組で、黒柳さんと40年以上の親交あるタモリさんは、黒柳さんは「恩人」であり、その人間像は「行かずとも、向こうから動いてこられる動く放送博物館」!と。

Ⅳ-166 朝日新聞2020年9月25日付「試練としてのパンデミックと21世紀の新思考-ゴルバチョフ元ソ連大統領-」から

 「かつて協調と相互協力を掲げた新思考外交で冷戦終結にも導いた」ゴルバチョフ氏が、標記題名の論考を朝日新聞に寄せた内容が掲載されました。コロナ禍にあっての新思考は注目される内容でしたので取り上げることにしました。

 コロナのパンデミック(世界的な流行)には「言葉も軍事力も効かない。国境では止められないし戦いでも勝てない。しかし毎日人々の命を奪っていく。社会的地位や民族的属性とは無関係の、人々の健康と生命への試練である。おそらく人類は初めて、人間の幸福はみんなに共通している、ということを意識した。それは国家のレベルを超えたものだ」と述べた上で、かつてのペレストロイカ(改革)の時期の思想は「それぞれの国家や国民が、人類生存のための共通の責任を認めることを前提としていた」と。従って現在は「世界保健機関の崩壊を認めないことが重要」と述べ、(アメリカの)最近の動きに警戒感を表明しています(その後、米国は脱退通知の撤回を表明)。

 更に氏は、「安全保障は軍事面だけではない。人々の健康の保持であり、環境と天然資源、水、食料の保護であり、飢餓と貧困との闘いである」として、「2020年のパンデミックは、対立から協調へと速やかに移行する必要性を改めて問いかけている」と指摘したのです。

 氏の指摘は、氏自身が述べているようにコロナ問題に止まらず、「環境と天然資源、水‥‥」等々、全世界そして地球的問題である諸問題に共通する課題なのです。自国第一主義的考えではとうていこれらの問題を克服できるものではありません。まだまだ安心できないこのコロナ禍にあって私達は改めて「新思考」を持って生きる必要があるのではないでしょうか。