いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第147回

日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】160-166

「原発回帰と気になる数値を考える」

 この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、 「 Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で30巡しました。今月から又、 「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活」を見ていきたいと思います。前回のこの項では、我が国の健康寿命と平均寿命について述べました。今回は原子力発電所の新規建設や食料自給率などのチョット気になることや数値について述べます。 

Ⅰ-160 原発の新規建設等閣議決定・・・・「原発回帰」

 非常に気になる政策(法案)が2023年2月10日閣議決定され国会に提案されました。現在(23年5月11日)参議院で審議中で、政府は今国会中に成立を目指しています。その法案は「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」です。内容は①原発の最大限活用 ②廃炉原発の敷地内で建替えを進める ③原発のない地域でも建設を検討 ④運転期間を原則40年+20年とし、司法判断などで停止していた期間は運転期間に含めない(仮に10年間停止していた場合は70年まで運転可能に)。というものです。東日本大震災時の東京電力福島第一原発事故以降の国の政策が180度変わってしまったのではないでしょうか。
 アノ事故によって多くの住民がふるさとを離れ、人によっては県外の生活を余儀なくされた多くの方々がおられます。現に当山形県にも多くの方が避難・移住されました。当圓應寺では震災で亡くなった方々の追悼法要を執り行った中で、避難者の痛恨の思いを直接伺ってきました。アノ苦い経験から原発に頼らないことを決めた政策が、一挙に変わってしまいました。特に福島とその近隣の県の人々にとっては納得できるものではありません。
 クライナ戦争、円安の中で発電コストの高騰によって電気代などが驚くほどの値上げになっています。政府はここぞとばかり原発容認に舵を切った感じがしてなりません。再生可能エネルギー開発に本気で取り組んでいるのでしょうか?原発事故、二度とごめんです!
 このような政策転換について、2022年12月23日付朝日新聞は、一面の「視点」で「電力危機に乗じた『回帰』」として次のように述べました。「岸田政権が、原発政策を転換する道を選んだ。ウクライナ危機に伴う燃料高騰や電力不足、脱炭素への対応を強調し、再稼働の推進だけでなく、原発の新規建設や運転期間の延長に踏み込んだ。これは原発依存を続けることを意味する。(中略)原発事故後に安全対策が強化され、建設には一兆円規模の費用がかかる。『核のごみ』を捨てる場所もない。重大事故が起きれば取り返しのつかない被害をもたらすことも経験した」と。さらに同紙の社説では「原発政策の転換 熟議なき『復権』認められぬ」と題して、「根本にある難題から目を背向け、数々の疑問を置き去りにする。議論はわずか4ヶ月。広く社会の理解を得ようとする姿勢にも乏しい。(中略)福島第一原発事故後の抑制的な姿勢を捨て、『復権』に踏み出そうとしている到底認められない。撤回し再検討することを求める」と強く反対する意を表明しました。
 アノ事故による関連死は2000人超、多くの人々が避難した福島県内の12市町村では未だに半数の人がふるさとに戻っていません。そして何よりも12年前の事故当日に発せられた「原子力緊急事態宣言」は今も継続中なのです。繰り返しになりますが、脱炭素、ロシアのウクライナ侵攻と円安によるオイル価格の上昇を盾にした「原発回帰」ではなく、政府がこれまで国民に示してきた「自然再生エネルギーの主力電源化」こそ進むべき道と思うのですが如何でしょうか。
 明日(23年5月19日)から主要7カ国首脳会議(G7)が始まります。その席上、ドイツのショルツ首相から議長を務める岸田首相と日本国民に次のような発言が飛び出すことはないのでしょうか?
「我が国は、貴国の福島第一原子力発電所の事故を受け、脱原発の政策を進めてきました。この間、ロシアのウクライナ侵攻に反対した我が国に、ロシアは天然ガスの輸出を大幅に削減し、エネルギー危機に直面しましたが、去る4月15日最後の原発3基が送電網から切り離され、ここに脱原発が完了しました。今後とも自然・再生可能エネルギー政策を推し進めていきます。当事国である議長国の政策は‥‥?」(ショルツ首相は思っていても言わないですよネ)。

Ⅰ-161  その他の気になる数値 ① ~食料自給率 ~ 

 令和3年度の食料自給率は、カロリーベースで、小麦、大豆が作付面積、単収ともに増加したこと等の要因で前年度より1ポイント高い38%となりました(前年度は65年度の統計開始以来、過去最低の数値)。国は、食料自給率の目標としとて、令和12年度までに、カロリーベースで45%に高める目標を掲げていますが、「過去最低ライン」に低迷しており、先進国の中で最低の自給率であり、深刻な状態にあります。
 この食料自給率の低さは、異常気象などによる世界的な食料減産や輸入危機などに遭った場合、極めて危険な状態になることを示しています。加えて、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長期化する中で、より一層の食糧輸入危機が迫っています。さらに物価高が追い打ちをかけ、生活に直結する大問題になっています。一方、新型コロナ予防薬が自国産ではなく輸入に頼らざるを得なかったことら、結果として接種が遅れてしまったことを私たちは経験しました。食料、医薬品は私たちの命と生活を守るための基本中の基本です。自国防衛は、「弾薬の備え」と言いたいところですが食料、薬品の外国依存度を減らし、自国で賄える政策が求められるのです。

Ⅰ-162  その他の気になる数値 ② ~ 追加・所得格差~

 世界の経済・所得格差については、この項の前々回でも述べましたが、それを補強する内容が、「世界不平等研究所」(本部・パリ)から2022年の報告書が発表されました。それによると経済格差は次の通りです。
 ① 世界富裕層の上位10%で世界全体の個人資産の75.6%を占めること
 ② 下位50%の資産は全体の僅か2%であること
以上の結果から、「不平等は今後も広がり続け、巨大な水準に達する」と危惧されるのです。尚、前年の報告書によると、日本社会は①富裕層上位1%で24.5%の資産を ②下位50%は5.8%であったが、1980年代から収入格差が広がっているとのことです。以前にも述べましたが、「一億総中流社会」と言われた社会はどこに行ってしまったのでしょうか。

Ⅰ-163  その他の気になる数値 ③ ~ 日本の報道自由度 世界71位~

 国際ジャーナリスト組織である「国境なき記者団」は、2022年5月3日に22年の世界各国の報道自由度ランキングを発表しました。それによると180カ国・地域のうち、日本は前年から順位を四つ下げて71位になってしまいました。同組織は、日本について「大企業の影響力が強まり、記者や編集部が都合の悪い情報を報じない『自己検閲』をするようになっている国の例として韓国やオーストラリアとともに言及」しました。
 日常生活の中で、「日本は報道の自由度が高い、北朝鮮、ロシア、中国などとは全く違う!」と思っていたのは、全く違っていたのです。そう言えば、20年9月の日本学術会議員の政府による任命拒否問題、NHKの政府寄りの報道姿勢がささやかれる事などを思い起こします。マスメディアは政治と行政を正しく批判し、私たちはそれを伝えるマスメディアをも正しく批判していくことが求められているのではないでしょうか。改めて71位の現実をかみしめたいものです。
 ちなみに、自由度1位は、6年連続でノルウェー、2位デンマーク、3位スエーデンの北欧3国が締めました。一方でロシア155位、中国175位そして最下位は北朝鮮でした。

Ⅰ-164  その他の気になる数値 ④ ~ 日本の男女平等  世界116位 ~

 この問題についてもこの項の「その他の気になる数値 ② ~ 追加・所得格差~」同様、22年3月に当時の数値で述べたのですが、新しいデーターで、再度取り上げます。他国が男女平等に懸命に取り組む中、日本の取り組みのあまりの遅さが目立つようになりました。
 2022年7月13日、「世界経済フォーラム(WEF)」が、世界の男女格差について2022年版「ジェンダーギャップ報告書」を発表しました。男女が平等な状態を100%とした場合、世界全体の達成率は68・1%。平等の実現までの年数はコロナ禍で遅れ、132年かかるとしました。22年版は146カ国を対象に、教育・健康・政治・経済の4分野を分析。教育環境や閣僚の数、賃金の男女差などを比較しました。その結果、日本の達成率は65.0%の116位となり、前年に続き主要先進国中で最下位に低迷しました。これは課題とされてきた経済と政治分野での低迷がその原因と言われています。経済分野の達成率は前年の60.4%から56.4%に後退して121位に。新型コロナ禍の影響が男性に比べ社会的弱者とされる女性により影響し、その内容は①労働参加率の男女格差が75.0%で83位 ②同一労働での男女賃金格差が64.2%で76位 ③管理職の男女差が15.2%の130位でした。低迷原因のもう一つの政治分野では6.1%で世界139位と極端に低迷しています。その内容は①国会議員の女性割合が10.7% ②閣僚の女性割合11.1%で120位 ③過去50年の女性首相0%の78位となっています。

Ⅰ-165 その他の気になる数値 ⑤ ~ さらに 経済的権利の男女格差  世界104位 ~

 前項「日本の男女平等「世界116位」の発表の後、2023年3月2日世界銀行から「190カ国・地域の経済的権利の男女格差」についての調査結果が発表されました。それによると日本は世界の104位、経済協力開発機構(OECD)38カ国で最下位という結果になりました。その内容を見ますと、「移動の自由」「育児」「資産」「年金」の四分野で男女格差がなかった一方で、「結婚」「起業」「雇用」「賃金」の分野では大きな格差が指摘されました。又、OECD加盟国の中で、職場でのセクハラに関する法律がないのは日本だけで、大半の国には刑事罰か救済制度があるとのことです。

 Ⅰ-166  その他の気になる数値 ⑥  ~急がれる努力と対策~

 世界で最も男女平等に近い国はアイスランドで、達成率は90・8%と唯一90%を超え、13回連続の一位。2位のフィンランド(86・0%)、3位のノルウェー(84・5%)、5位のスウェーデン(82・2%)と上位には北欧の常連諸国が占めました。
 我が国では2018年に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が施行されました。この法律は、衆議院、参議院及び地方議会の選挙において、男女の候補者数をができる限り均等にするよう、政党等に求めたものです。施行から4年が経過した2022年7月に参議院選挙が行われました。その結果、女性の当選者が過去最多となり各政党の努力が成果となって現れました。しかしよく見ると当選者全体の3割に満たない人数なのです。2022年7月14日付の朝日新聞は「立憲は・・・当選した17人中9人が女性。西村幹事長は『変化の感触の手応えはあるが、うねりに至るまでにはならなかった』」と報じました。均等に向け、各党の今後一層の努力が求められるのです。