圓應寺 住職法話
住職法話 第132回
日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】144-148
「男女格差と所得格差について」
この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、 「 Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で27巡しました。今月から又、 「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活を見ていきたいと思います。前回のこの項では「2020東京オリンピック・パラリンピック」について、オリンピックを中心に一般とは異なる角度から考えてみました。今回は、男女格差と所得格差について述べます。
Ⅰ-144 世界経済フォーラムによる各国男女格差報告 ①
スイスのシンクタンク・世界経済フォーラム(WEF)が2021年3月31日、各国男女格差報告「ジェンダーギャップ指数2021」を発表しました。この報告は2006年に始まり、経済、教育、健康、政治の四分野について男女格差を数値化し、順位付けしたものです。
今回の報告によると日本は世界156カ国中120位で、前年の153カ国中121で順位を一つ上げたものの、今回も主要7カ国(G7)中、最下位でした。第1位は12年連続ででアイスランド、2位フィンランド、3位ノルウェーと北欧の国々が続き、4位はニュージーランドでした。ここで注目されるのは、この4カ国の首相がすべて女性ということです。
主な国の順位は、ドイツ11位、米国30位、韓国102位、中国107位、クーデターで混乱しているミャンマーが109位となっています。「経済大国」「民主国家」とも言われる我が日本ですが、想像以上に男女の格差が大きく、世界の順位付けを見てその現実に驚くばかりです。
Ⅰ-145 世界経済フォーラムによる各国男女格差報告 ②
分野別に見ますと、日本が最も格差が大きいのは女性議員やの閣僚の少ない政治分野で147位、女性の政治参画の遅れが指摘されました。その他教育分野で高等教育機関への入学割合、経済分野で賃金格差拡大が指摘されました。このように日本は主要七カ国で最低であるばかりか、中国と韓国にも及ばない男女格差が大きい国なのです。
女性であることで減点される大学入試、森氏によるオリンピック委員会の女性蔑視発言、東京五輪・パラリンピックの開閉会式の演出を統括するはずだった佐々木宏氏の渡辺直美さんの容姿を侮辱する演出案、二階自民党幹事長(当時)の女性議員の会議オブザーバー発言等々‥‥社会的政治的問題になった数々の問題が頭をよぎります。
2018年に選挙候補者の男女均等を目指す「政治分野における男女共同参画推進法」、19年には女性活躍推進法等の一部を改正する法律が成立し、同年6月5日に公布されたのでしたが……政府の方針として声だかに叫ばれた「女性活躍推進」の政策は何処へ行ってしまったのでしょうか。
Ⅰ-146 世界経済フォーラムによる各国男女格差報告 ③
2019年のこの報告も今年とほぼ同等の内容でしたが、その評価について、、「NIKKEI STYLE」が、認定NPO法人ウイメンズアクションネットワーク理事長の上野千鶴子氏(そうです!2019年、東京大学学部入学式で祝辞ほを延べ、このホームPで、翌年5月に紹介した方です)にインタービューした内容が、2020年2月2日のYAHOO!ニュースで紹介されました。大変参考になりますのでここで紹介します。
氏は、大きく後退した結果について「悪化したのではなく、変化しなかったのです。諸外国が大きく男女平等を推進している間、日本は何もしなかった。だから結果として順位を下げたのです」「選択的夫婦別姓などを早くから指摘されているのに何もしない。……政権与党に本気で変える気がないからです」と。「女性活躍推進法」については、「罰則規定がないので実効性がありません。例えば候補者ができるかぎり男女同数になることを目指した候補者男女均等法。法律が施行されて初めての国政選挙となった19年7月の参議院選はどうでしたか。候補者の女性比率はわずか28%です。自民党に至っては15%にとどまっています。結果、女性の当選者は28人で改選前後で変化がありません。法律を作った効果はゼロといえます」ときっぱりです。一方で「働く女性は3000万人を超えましたが、6割が非正規雇用です。男女の賃金格差も大きな問題です」と。続けて「シンプルな解決方法があります。最低賃金を全国一律で1500円にすること。年2000時間で30万円の収入になります。この年収額は夫婦の関係を変える分岐点です。パートナーの収入が300万円を超えると生活水準が変わり、お互い相手が、辞めないように、という力学が働きます」と。なるほどなるほど!です。
Ⅰ-147 オッスファム・インターナショナルによる世界の所得格差の実態
2020年1月20日、国際援助団体オッスファム・インターナショナルは、次の内容で所得格差の実態を発表しました。①世界で10億ドル以上の資産を持つ人(ビリオネア)の数が10年間で倍増し、2153人に達した ②その富裕層2153人は、最貧困層46億人(世界人口の60%超に相当)よりも多くの財産を持っている ③世界で最富裕層22人は、アフリカの女性全員よりも多くの財産を持っている ④最富裕層1%の人に僅か0.5%の追加課税を10年間課するだけで高齢者介護と保育、教育、保健の業界に1億1700万人分の雇用を創出可能な金額を賄える
以上の通り、その内容は正に驚くべき内容です。オックスファム・インドの最高経営責任者(CEO)は、「破綻した経済は一般の国民を犠牲にすることで億万長者や大企業の財布をいっぱいにしている」と。続けて「女性が最も少ない利益を得る形になっている」と述べ、さらに「不平等の危機を作り出してきたのは政府だ」として「各国政府は今こそそれを終わらせるために行動しなければならない」と述べています。ここにもジェンダーギャップ問題が隠されていたのです。
Ⅰ-148 国連、各国に社会保障の充実や機会の平等を求める
2020年1月21日、国連が「世界の3分の2の国(世界人口の71%)で所得格差が広がり、不平等が進行している」と発表し、社会保障の充実や機会の平等を保障することなどを各国に求めました。不平等の内容として、①インターネット接続環境は、先進国が人口の87%に整備されているが、最も遅れた途上国では19% ②気象変動で、熱帯地域の貧しい諸国が大きな影響を受けるとともに、貧困層や先住民などの人々がより大きな影響を受け、格差が拡大 ③世界各地で都市化が進み2016年時点で、都市に住む4人に1人(約10億人)がスラムで生活 ④国際的移民が、賃金、機会、生活スタイルにおいて、不平等の最強の象徴
以上の内容を指摘した上で、「金融や労働市場の規制緩和、所得税の累進課税の弱まり、社会的保護の弱まりは一部の国で所得格差の拡大を増幅させている」と述べています。前項のオッスファム・インターナショナルによる所得格差の実態は、個人間の格差なのに対して、国連は国と地域間の格差です。日本社会でも盛んに格差の拡大が指摘されています。憲法の「健康で文化的な最低限度の生活」を正に最低限度とした社会を目指したいものです。