圓應寺 住職法話
住職法話 第102回
日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】106~109
「生活保護行政に問題 生活保護費削減とその影響 1」
この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、 「Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で20巡しました。今月から又、 「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活」を見ていきたいと思います。
前回のこの項では厳しい経済生活の最後のセーフティネットと言われる生活保護、特に2017年1月に問題が発覚して大問題となった「小田原市のジャンパー事件」とその後について述べました。今回はその2回目として生活保護費削減とその影響を中心に述べます。
Ⅰ-106 生活保護行政に問題 ⑥
2012年、芸能人の母親の不正受給発覚以後、生活保護の不正受給が政治的にもメディア的にも大々的に取りざたされました。しかし「不正受給は金額ベースで0.5%。その不正とされた中には悪意のない申告漏れなどもふくまれている」とも言われる中、「生活保護の重要な課題は、不正受給ではなく、本当に必要な人に生活保護という制度が行き届いていないことにある」と多くの専門家が指摘しています。いずれにしても「厳しい経済生活の最後のセーフティネットと言われる生活保護」が「本当に必要な人に」行き届いてほしいものです。同時に国と自治体関係者は、生活保護行政の問題がなかなか表面化しないのは、受給者が被害を告発すれば保護を打ち切られるのではないかという弱い立場いるということを常に胸に置くべきではないでしょうか。
Ⅰ-107 生活保護行政に問題 ⑦ ~ 保護費削減とその影響 1 ~
2017年12月22日、厚労省は生活保護費の段階的引き下げを中心とした施策を決定しました。その概要は、
- 食費や光熱費などの「生活扶助費」を段階的に最大5%引き下げる
- 一人親世帯に対する「母子加算」を現行の21,000円から17,000円に引き下げる
- 義務教育の中学卒業まで支給する「児童養育加算」を高校卒業まで拡大し、10,000円支給する
- 新たに、大学入学時に2018年度の入学から30万円の一時金を支給する
以上が大まかな内容です。生活保護費の改定は、5年に一度行われ、これまでも2006年に70歳以上に支給されていた「老齢加算」の廃止、2015年には「住宅扶助費」の引き下げなどが行われてきました。今回の改定は、①については18年10月から3年間で段階的に引き下げ、総額160億円の削減。②については受給世帯の76%が減額となります。
Ⅰ-108 生活保護行政に問題 ⑧ ~ 保護費削減とその影響 2 ~
前項の様に大幅な引き下げは、生活保護を受けていない世帯の年収下位10%の層の生活費を調査して、バランスをとるというものです。しかし社会の実態は生活保護を受給出来る人の内、実際に受給しているのは2割以下とも言われています。保護の受給を働きかけることは当然必要ですが、保護基準以下で生活している人に基準を合わせるというのは如何なものでしょうか。引き下げの連続になると思うのですが…。ご承知の通り、日本国憲法第25条では、「健康で文化的な最低限度の生活を」保障すると謳っています。私達は、事故、疾病、倒産等々により誰もが生活破綻の危険性を持っています。生活破綻は個人の自己責任という考えは前近代的なものになった現代にあって、社会的責任として安心して生活ができる保障、最後の砦が生活保護制度なのです。保護費の引き下げは、受給者への直接的影響にとどまりません。引き下げは経済的に厳しい子供への就学援助、介護保険の減免、最低賃金への影響など多岐に亘ります。大きな関心を持って行きたいものです。
Ⅰ-109 生活保護行政に問題 ⑨ ~ 保護世帯数 ~
「それでは生活保護を受給(利用)している世帯数を見てみます。今年(2019)2月7日厚労省の発表によりますと、2017年度の1か月平均は164万854世帯、前年比3809世帯の増加となり、過去最多を記録したのです。この様に保護世帯が増加した内容を見ますと、高齢者受給世帯が前年より2万7685世帯増え、全体の52.7%の86万4714世帯となり、全体を押し上げる結果となりました。これまでも老人世帯の厳しい経済的現実について、この項の「Ⅰ 日本社会の現状」第67回(2016.10.01)から第87回(2018.06.01)の5回に亘って「高齢社会にあってその生活を支える老後の経済的備え」として取り上げ、そのなかで「『貯蓄がない』世帯は14.9%、100万円以下の世帯は8.2%で合わせると20%を超えることになります。又、平均所得以下の世帯が61.4%、前年より貯蓄が減った世帯は4割という厳しい実態」と述べました。同時に若い世代に老後の準備が出来ていないことについても取り上げました。繰り返しになりますが、生活の最後のセーフティーネットとしての生活保護制度が「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(憲法第25条)具体的制度と内容を持つと共に「本当に必要な人に行き届いてほしい」ものでなければなりません。