いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第89回

有限の人生そして死を意識して
【「いのち」の考察】92~97

「尊厳死について 終末期医療」

 この項については6回に亘って「尊厳死」、「自然死」、「安楽死」、「延命治療」そして「日本尊厳死協会」について述べ、前回は法制化の動きに反対する関係団体の意見について述べました。今回はその7回目として、「終末期医療」について述べます。

Ⅲ-92.終末期医療のガイドラインについて ~①厚労省ガイドライン~

 これまで述べてきましたように、現在のところ尊厳死については法制化されていませんが、終末期の医療のあり方については厚労省をはじめ、多くの学会・団体からガイドラインが示されています。代表的なものとして厚労省、日本医師会、日本救急医学会の概要を紹介します。

◆ 厚労省(2007年5月「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」)

  1. 終末期医療及びケアの在り方
    ① 医療者から適正な情報の提供と説明がなされ、患者本人による決定を基本に終末期医療を進めることが基本
    ② 終末期医療における医療行為の開始・不開始等は医療・ケアチームによって慎重に判断
    ③ 可能な限り疼痛や不快な症状を緩和し、総合的な医療及びケアを行うことが必要
    ④ 生命を短縮させる意図を持つ積極的な安楽死は、本ガイドラインでは対象としない
  2. 終末期医療及びケアの方針の決定手続
    ① 患者の意思の確認ができる場合は患者の意志決定を基本とする
    ② 患者の意思の確認ができない場合は
     ⅰ.家族が患者の意志を推定できる場合はそれを尊重
     ⅱ.家族が患者の意志を推定できない場合は、家族と十分に話し合い、最善の治療方針をとる
     ⅲ.家族が居ない場合及び家族が判断を医療・ケアチームに委ねる場合は、最善の治療方針をとる
  3. 複数の専門家からなる委員会を別途設置し、治療方針について検討及び助言を行う

Ⅲ-93.終末期医療のガイドラインについて ~②日本医師会ガイドライン~

◆ 日本医師会(2008年2月「終末期医療に関するガイドライン」)

  1. 終末期医療及びケアの在り方
    ① 終末期の状態にあることの決定は、医師を中心とする複数の専門職種で構成する医療・ケアチームで行う
    ② 治療の開始・差し控え・変更・中止等は患者の意志決定を基本に医療・ケアチームで判断
    ③ 疼痛やその他の不快に症状を緩和
    ④ 積極的安楽死や自殺幇助等の行為は行わない
  2. 終末期医療方針の決定手続
    ① 患者の意志が確認できる場合は、患者の意志を基本に医療・ケアチームで決定
    ② 患者の意志がその時点で確認できない場合は
     ⅰ.患者自身の事前の意思表示書がある場合はそれを基本に医療・ケアチームが判断
     ⅱ.意思表示書がない場合は、家族等の話などから患者の意志が推定できるばあいは、推定意志を尊重した治療方針をとる
     ⅲ.患者の意志が推定できない場合は、家族等の判断を参考に、患者にとっての最善の治療方針をとる
  3. 複数の専門家からなる委員会を別途設置し、医療・ケアチームで決定が困難な場合等の時には治療方針について検討及び助言を行う

Ⅲ-94.終末期医療のガイドラインについて ~③日本救急医学会ガイドライン~

◆ 日本救急医学会(2007年11月)

  1. 家族等が積極的な対応を希望している場合
    本人の事前指示を確認し尊重する。家族等に現時点における最良の治療をもってしても救命が不可能であることを説明。その上でもなお家族等の意志が、積極的な対応を希望する場合はその意志に従う
  2. 家族らが延命措置中止に対して「受容する意志」がある場合、以下の優先順で中止する
    ① 本人の事前指示があり、家族らがこれに同意している場合はそれに従う
    ② 本人の意志が不明の場合は、家族らが本人の意志を忖度(ソンタク)し、家族らの容認する範囲内で延命措置を中止する
  3. 家族らの意志が明らかでない、あるいは家族らで判断できない場合は主治医を含む医療チームの判断。患者本人の事前意志がある場合は、それを考慮して医療チームが判断する
  4. 本人の意志が不明で、身元不詳などの理由により家族らと接触できない場合は、医療チームで判断

 以上、三団体のガイドラインを見てきましたが、共通の考え方として、①事前の患者本人の意志を出来るだけ尊重すること。②家族関係者の考えを基本に医療チームで対応すること。③「安楽死」を否定するという考え方です。各団体とも微妙に異なると共に、「家族」「家族等」と家族関係者の範囲も曖昧です。
 又、患者にとって「最も良い医療」?、言葉としては大変美しいのですが、その具体的中身は何なんでしょうか。

Ⅲ-95.厚労省・改正終末期医療のガイドライン(案) ~④-ⅰ「『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』の改訂」~ 

 その後、2018年1月17日、厚労省から「改正終末期医療のガイドライン(案)]が有識者検討会に提示されました。これまでの厚労省「終末期医療のガイドライン」は2007年5月「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」として作成されましたが、全体に流れる考え方は「病院死」を前提としたものでした。しかし、「在宅死」を望む患者さんが多いことに加え、最近の医療費削減政策(特に入院抑制)の流れの中で、改正案に自宅や介護施設で最期を迎えたいという要望に応えるよう、担当医師や看護師に加えケアマネージャー、介護福祉士なども加えて本人、家族と繰り返し話し合うことの重要性が盛り込まれました。
 その後、2018年3月14日付で、厚労省医政局地域医療計画課在宅医療推進室より、「『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』の改訂について」と題して改定内容が正式に発表されました。

Ⅲ-96.厚労省・改正終末期医療のガイドライン(案) ~④-ⅱ「『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』の改訂」~

 それによると【主な改訂のポイント】として以下の説明文が添付されました。
 高齢多死社会の進展に伴い、地域包括ケアの構築に対応する必要があることや、英米諸国を中心としてACP(アドバンス・ケア・プランニング)の概念を踏まえた研究・取組が普及してきていることなどを踏まえ、以下の点について改訂を行った。

  1. 病院における延命治療への対応を想定した内容だけではなく、在宅医療・介護の現場で活用できるよう、次のような見直しを実施
    ・「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に名称を変更
    ・医療・ケアチームの対象に介護従事者が含まれることを明確化
  2. 心身の状態の変化等に応じて、本人の意思は変化しうるものであり、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むか等を、日頃から繰り返し話し合うことの重要性を強調
  3. 本人が自らの意思を伝えられない状態になる前に、本人の意思を推定する者について、家族等の信頼できる者を前もって定めておくことの重要性を記載
  4. 今後、単身世帯が増えることを踏まえ、「3」の信頼できる者の対象を、家族から家族等 (親しい友人等)に拡大
  5. 繰り返し話し合った内容をその都度文書にまとめておき、本人、家族等と医療・ケアチームで共有することの重要性について記載

又、【ガイドライン作成の経緯】として、次の説明が付け加えられております。
平成19年にとりまとめた「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」は、平成18年3月に富山県射水市における人工呼吸器取り外し事件が報道されたことを契機として、策定されたもの。
人生の最終段階における医療の在り方に関し、

  • 医師等の医療従事者から適切な情報提供と説明がなされ、それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行った上で、患者本人による決定を基本とすること
  • 人生の最終段階における医療及びケアの方針を決定する際には、医師の独断ではなく、医療・ケアチームによって慎重に判断すること

などが盛り込まれています。

 以上のように有識者検討会に提示した内容が基本的に踏襲され、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に名称を変更して正式に改訂されました。

Ⅲ-97.「日本臨床救急医学会」救急隊指針 ⑤

 一方、消防本部、救急隊員、医師等で組織する「日本臨床救急医学会」が、2017年4月7日終末期患者が心肺停止した場合、救急隊が蘇生措置をするかどうかの指針を発表しています。
その内容の基本は、患者本人の蘇生を希望しない旨の文書が事前に有り、かかりつけ医の指示が確認できた場合は、救急隊が蘇生を中止するという内容です。
 この指針の背景にあるのは、本人が蘇生を含めた延命治療を望まないことを家族間で話し合い意思確認をしていても、いざその場になると気が動転してしまった家族が119番救急手配をしてしまう場合が多いのです。この様な現状に対して患者の意志を尊重すると共に、現場救急隊の悩みを和らげるのが今回のねらいと言えます。
 但し、この指針で全て解決ということは難しいのではないでしょうか。事前に本人が文書化していたとしてもいざその場で直ぐにその文書を確認できるかどうか。「いざその場」は緊急かつ混乱の場です。日頃から家族間でよく話し合っておく必要があるのではないでしょうか。

 先回にも述べましたが、私自身、今年(2018年)の身内新年会(子供と孫達を集めた)で、「尊厳死」についての文書を発表しました。後期高齢となった自分を見つめて行きたいと思っています。