いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第82回

日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】84~89

「高齢社会にあってその生活を支える老後の経済的備え 4」

 皆様明けましておめでとうございます。新しい年を清々しい気持ちで迎えられたことと思います。昨年の私たちの生活は、就職率は上がったものの実収入は増えず生活はなかなか楽には成りませんでした。そんな中、急な解散・総選挙が行われました。選挙公約をもう一度思い出し、公約が実現されるか良く目を見開いていきたいものです。
 さて、この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、「 Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で16巡しました。今月から又、「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活を見ていきたいと思います。前回のこの項では「老後の経済的備え」の続編として「老老介護」の厳しい実態についても述べました。今回は、再度「老後の経済的備え」の続編として、ちょっと本論から外れますが、昨年(2017年)7月15日付の日本経済新聞に掲載され、誰でも陥りやすい経済生活の落とし穴について述べた「中高年、収入急減の『5つの崖』」の記事を紹介しながら老後の生活問題を考えます。

Ⅰ-84 中高年 収入急減の「五つの崖」(日本経済新聞2017.7.15付) ①役職定年の崖

山形・銀山温泉

 かつて1980年~1990年代に定年が55歳から60歳に延びたことを背景に、人件費の抑制と「組織の活性化」いう観点から役職定年を多くの企業が実施しました。その対象年齢は55歳が最も多く、次いで57歳を機に導入している企業が多いとのことです。その結果、役職定年前の賃金に比較して、賃金水準が変わらないのは僅か11%、86%が「下がる」とし、その内の8割が「75~99%」に。約2割が「50~74%」(人事院2007年調査)になり、「役職定年を考えずにローン返済や教育費を決めるのは要注意」と記事は伝えています。
 ところで、この役職定年については、「週刊現代」2017年8月12日号でも「サラリーマン哀歌 それは定年退職の数年前にやってくる 『ああ、役職定年~仕事も部下もなくなる日』」と題して取り上げられました。それによると「大企業の約5割で導入されている」役職定年は「権力と権威を奪われ、年下の上司の顔色を窺う生活」として、「今から準備しなければ、会社員人生の最後の数年が『針のむしろ』になる」ことが予想されるものの、「多くのサラリーマンがその現実と向き合っていない」と警告しています。
 経済的な対策だけでなく、自らの心構えも準備が必要なのです。

Ⅰ-85 中高年 収入急減の「五つの崖」 ②定年の崖

 二つ目の崖は定年です。65歳までの雇用が義務づけられましたが、企業の多くは「再雇用」制度を導入しました。その結果収入は大きく減り、5割の企業で再雇用後の基本給が50~80%、3割の企業で50%未満(厚労省)になるということです。

Ⅰ-86 中高年 収入急減の「五つの崖」 ③年金生活の崖

 再雇用が65歳で終わり、年金生活に入ると収入は更に減少します。日経新聞では、厚生年金の平均月額は基礎年金と合わせ、男性で約16万6千円。年収で約199万円。専業主婦の妻の基礎年金と合わせても200万円後半と試算しています。同紙は「早めに身の丈に合った水準に切り替える」必要を説いています。

Ⅰ-87 中高年 収入急減の「五つの崖」 ④企業年金の崖

 終身受給できる企業年金が激減し、現在は10~15年程度の有期型が増えているとのことです。公的年金制度と同じく終身の制度と勘違いしないよう注意を呼び掛けています。

Ⅰ-88 中高年 収入急減の「五つの崖」 ⑤配偶者死亡による公的年金減少の崖

 同紙によると、夫の現役時代の年収を600万円、妻が専業主婦として、共に生存している場合の年金額は288万円、月額約24万円になると試算しています。ところが、夫が先に亡くなった場合、厚生年金(この試算では132万円)の四分の三に当たる99万円が遺族年金になるというのです。実際にはこの年金にプラスして自分の基礎年金78万円を受給するも、合計で177万円、夫婦での金額に比べると110万円も減ってしまうということです。同紙は「支出は一人になっても大幅には減らない」と注意しています。

Ⅰ-89 中高年 収入急減の「五つの崖」 ~「収入減、家族に宣言を」~

 同紙は最後に、「様々な崖を乗り切るには、いつまでも現在の収入が続かないことを認識した上で、配偶者や子供に見栄を張らず、収入が減った場合はきちんと宣言すべきだ」という考えを紹介しています。
 「老後の生活」について考えさせられる指摘です。自身に見合った生活を準備し、構築していきたいものです。