圓應寺 住職法話
住職法話 第72回
日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】
「高齢社会にあってその生活を支える老後の経済的備え 2」
この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、 「 Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で14巡しました。今月から又、 「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活を見ていきたいと思います。今回は、前回の「老後の経済的備え」の続編です。
Ⅰ-74 若い世代、ますます深刻化する老後の蓄え ①
先回のこの項でNHKの番組では老後の蓄えとして「3000万円が必要」ということを紹介しました。勤労者の場合は退職金も含めてとは言え、一般には大変な金額であり、これだけの準備が出来ている人はどの程度いるのでしょうか。加えて、非正規就労者が年金受給年代になったときの年金はどうなるのでしょうか。厚生年金に該当しない方が多く、国民年金のみとなるのではないでしょうか、特に女性にその可能性が大きくなると思われるのです。今の若い世代を考えると「ますます深刻化する老後の備え」が予想されるのです。
先に述べた「何歳まで働きたいか?」の問いに「65歳を超えても」が50.4%で、60歳以降も働きたい理由として「生活費を得たいから」が76.7%という高い数値の現実意味がここにあるのです。
Ⅰ-75 若い世代、ますます深刻化する老後の蓄え ②
老後の蓄えの不安は特に女性に大きいことを前項で述べましたが、ベルメゾン生活スタイル研究所(通販大手の千趣会が運営)の調査(2016年6月インターネットで30~50歳の女性を対象)によると「年金をあてにしてはいけないと思う」人が実に82.3%に上ります。加えて「自分の資産や貯蓄に対して不安を感じることがあるか」との問いに「とてもそう思う」37.0%、「わりととそう思う」42.4%となり、合計8割近い女性が不安を感じており、年金問題と併せ、老後の経済生活の不安が大きいことを示しているのです。
Ⅰ-76 老後の蓄えによって……①
退職後、年齢を重ねるにしたがって在宅生活が困難になる可能性が増します。その場合は、何らかの施設に入所を希望することになります。特に体に障害がある場合は特別養護老人ホーム(特養)への入所を考えることになります。しかしその現実は非常に厳しいものがあります。以前から言われていることですが、全国の特養ベット数に匹敵する50万人以上の方が待機者なのです。この現実に最初から入所を諦めている人も数多く、実際の入所希望者はこの人数をかなりオーバーしていると言われています。この現状は最近騒がれている保育所不足問題に対して「待機保育児ゼロ」を宣言した自治体もありましたが、直ぐ待機児童が増えてしまう状況下に酷似しています。つまり、厳しい入所困難の現実を目の前にして 諦めている方がかなりいるという状況なのです。
この様な状況に加え、2015年特養入所の条件を「原則要介護3以上」と厚労省が定めたため、入所はますます困難な状態になってしまったのです。
Ⅰ-77 老後の蓄えによって……②
特養入所の狭き門を前にして、在宅が困難な人は他の施設を選択しなければなりません。多くのケースは、病気・ケガで入院し治療を受け、在宅が困難な場合はリハビリ等を担当する次の病院に転院することになります。しかしそこの病院にもいつまでも入院は出来ません。「そろそろ…退院を」ということになり施設入所を目指しますが、何回も述べたように特養の狭き門を前にして一応入所申込みを出しても「待機者」となってしまいます。結果、老健施設への入所を考えます。
しかしこの施設はあくまでも在宅に戻るための訓練施設であり、3~6ヶ月で退所となってしまうのです。
Ⅰ-78 老後の蓄えによって……③
何カ所かの老健施設を渡り歩いたとしても、落ち着くことは出来ません。どうしても在宅が困難な方は、終の棲家としての民間の有料施設を探すことになります。しかし、入所にはかなりの一時金や月額利用料が必要となり、日常のおむつ代や医療費も必要となります。したがって経済的事情により、①介護付ケアハウス(軽費老人ホーム) ②グループホーム ③諸サービス付き高齢者向け住宅 ④有料老人ホーム等を選択することになります。当然のことながらそれぞれの施設により入所にかかわる経費は異なります。①についての軽費は、入所一時金が数十万~数百万円、月額16万~20万円であるのに対して、④の施設では入所一時金が何千万などという所もあるようです。
老後の準備金によって終の棲家に厳しい現実が待っているとも言えるのです。
Ⅰ-79 老後の蓄えはいくら必要か? ②
以前にも述べましたが、1947~1949(昭和22~24)年に誕生した「団塊の世代」が後期高齢者となる2025年には、75歳以上の人口は全人口の18%、2000万人を越えることとなります。したがって今後はますます施設入所が困難となるのです。
ところが、施設の前段とも言える入院についてもかなり厳しい事態となることが予想されているのです。国の施策として医療費削減のためベット数を減らす方針でいるのです。具体的には高度急性期病床を約19万床から13万床に、急性期病床を約58万床から40万床に、慢性期病床を約35万床から24万床に減らそうということなのです。増える医療費対策として在宅医療・介護を推し進めようという訳です。長寿=幸せの時代ではなくなる(なくなった)のでしょうか。
その他にも団塊の世代が後期高齢者となる2025年には介護に当たる人が38万人不足することが予想され、「高齢者が難民になる」などとの見方も出てきているのです。そして最後に多死社会を迎え、火葬場までも不足するのではないかと言われています。この施設は中々増やすことが出来ない状況下にあります。現在でもかなり待たされる場合も出てきました。山形市では他の自治体の火葬場を利用することもあるのです(山形は全て自治体の火葬場です)。
この項の次回も「老後の経済的備え」について述べます。