圓應寺 住職法話
住職法話 第62回
日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】64~68
「高齢社会が生み出すペット事情と再度人口動態予測 世界で一番貧しい大統領」
この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、 「 Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で12巡しました。今月から又、 「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活」を見ていきたいと思います。 前回のこの項ではマララさんの演説に対する答えとも言うべき考え方の紹介と予想される人口減少と高齢化について述べましたが、今回は高齢社会が生み出すペット事情と再度人口動態予測について述べます。最後に番外として「世界で一番貧しい大統領」について述べます。
Ⅰ-64 現代世相を映す ~ペット 猫が犬を近々逆転か~
「これまでペットの人気を二分して来た犬と猫。長く犬のリードが続いていたが、猫が逆転する日が近々やって来そうだ」(2015.10.26付、朝日新聞)との記事が載りました。 「一般社団法人ペットフード協会」による犬と猫の推計飼育数によると「(2014年の調査では)犬は1035万匹、猫は996万匹。過去5年で犬は12.8%減少、猫は3.6%増」と。 この逆転現象について「犬に逆風となっているのは、飼い主の高齢化」、さらに「散歩の必要もない猫は単身者でも飼いやすい」と指摘しています。 この様な事情を背景に、「飼い主の加齢に伴う負担の大きさから、犬の飼育数の減少に歯止めがかからない」状況下にあるということです。
又、メディアでも猫人気が顕著として、CMやドラマに出演する犬猫を擁する湘南動物プロダクションの現状を「かつては犬への仕事依頼が8割を占めたが、 最近は猫が6割」と紹介しています。
言われてみれば、わが家もこの状況下にあることに気づきます。昔から犬を飼っており、代々「埀石平蔵(ヘイゾウ)」と名付け、五代目平蔵まで飼っていたのですが、 10年前に死亡してからは六代目に続きませんでした。その理由は記事の内容そのものです。ただ、犬から猫への転換はありません。
Ⅰ-65 本当は「犬が好き!」
ところが、同じ朝日新聞の2015年11月28日付、アンケート調査「犬と猫、どっちが好き?」(調査回答者数2281人)によると、犬67%、猫33%と圧倒的に犬派が多い結果となりました。
つまり、前項でも述べましたように実際にペットとして飼うには散歩が必須条件である犬は、高齢世帯にとっては大きな負担ということなのです。しかし心の中では犬なのです。これも私の想いにピッタリです。
さて、前項の業界団体の、その後の調査によりますと。2015年の推計飼育数は、犬が991万7千匹(前年比4.1%減)、猫は987万4千匹(前年比0.9%減)となり、僅差で犬がリードしている状態。しかし逆転はもう目の前のようです。
Ⅰ-66 日本社会の高齢化と将来人口
2015年4月17日総務省の発表によると、65歳以上の人口は、3300万人で、 初めて14歳以下の2倍を超えたという事です。これは総人口の26.0%を占め、過去最高を更新ました。さらには、8人に一人が75歳以上という実に高齢社会となりました。 この様な人口背景の中で「犬猫逆転間近」現象が起きているのです。
さて、今後の日本社会の人口はどうなるのでしょうか。これまでも述べ、この項の前回でも触れましたが、改めて展望してみたいと思います。
2010年1月30日国立人口問題研究所の将来の人口予測によると、2010年の人口1億2806万人が、2048年に1億人を割り込み、50年後の2060年には3割減少し、8674万人の予想となっています。 又、14歳以下の人口も半減するとともに、労働人口も5割近くになります。一方、平均寿命は今後も延び、男子は84.19歳、女子は90.93歳の大台に乗ることから、65歳以上は3464万人に増加するとのことです。 この結果、2060年には、10人中老人4人、労働人口5人、子供1人の割合となり、正に超少子・老人大国となるのです。
Ⅰ-67 差し迫った少子化対策
最近、保育所待機児童の問題が、社会問題化しております。この問題は以前から問題として取り上げられてきましたが、政治の表舞台に登場する事はありませんでした。 一人の親の強烈な発信が、国会の対応を巡って政治課題化し、マスコミも大々的に取り上げるようになりました。長寿は高齢者の人口を押し上げ、大変結構な事ですが、超少子化は結果的に高齢者の割合を増やすだけではなく、人口減少そのものに直結します。 両親が安心して子を産み育てられる環境対策の一つが、保育所待機児童の解消です。これは母親が安心して働く事への対策ではありません。 父親を含めた家庭全体、そして社会全体への対策なのです。少子化対策は、保育所増設といった単純なものではありませんが、世論の機が熟した今こそその実現を望むものです。
Ⅰ-68 番外「世界で一番貧しい大統領」と言われた、ホセ・ムヒカ氏の来日について
「世界で一番貧しい大統領」と言われた、地球の裏側の国・南米のウルグアイ前大統領、ホセ・ムヒカ氏がこの4月5日来日し、東京外国語大学で7日、「日本人は本当に幸せですか」をテーマに講演しました。 この内容がマスコミで報道され、注目を集めました。私も仏教精神「足るを知る」に通ずる素晴らしい内容に関心を持ちました。私達が生活する上で十分に参考になると共に、日頃の生活を反省しなければならない内容でした。 その生き方を含め「番外」としてご紹介します。
前大統領は、貧しい家庭に生まれ、7歳のときに父親が死去したことなどから。幼児期からパン屋や花屋で働きました。10代で政治活動に入り、当時の独裁政権に対抗したゲリラ活動に参加しました。 4度投獄され、最後の刑務所暮らしは13年に及んだということです。その後下院議員を経て、2010年大統領に就任しました。15年、憲法の規定によって一期の任期満了で惜しまれながら退任しました。
ムヒカ氏は大統領に就任しても公邸に住むことなく、小さな家で畑を耕し、犬やニワトリと暮らし、財産としては当選時に友人たちからプレゼントしてもらった約18万円の1987年型フォルクスワーゲンということです。 その愛車をアラブの富豪からの「1億円で買い取りたい」、という申し出を「友人を裏切り傷付つけたくない」と断ったということもあるようです。 又、月給約100万円のうち、9割を寄付し、自身は残り1割の10万円で質素な暮らしを貫いてきたというのです。
ところで、そのムヒカ前大統領を一躍有名にしたのは、ブラジルで2012年に開かれた環境問題を話し合う国連会議での名スピーチでした。「貧乏とは少ししか持っていないことではなく、無限に欲があり、いくらあっても満足しないことです」と。 このスピーチは各国首脳の心を打ち、ノーベル平和賞の候補にもなりました。
さて、来日しての講演。「一番大きな貧困は孤独です。物の問題ではない」として大量消費社会を批判した上で、「あなたがスーパーマーケットで買い物をするとき、それはお金で買っているのではありません。 お金を稼ぐために費やした人生の時間で買っているのです。そして、人生の時間を売っている店はどこにもありません」と。
又、若い世代に選挙(投票)に行く事の大切さ、パナマ文書によって明らかになったタックスヘイブン(租税回避)問題にも触れました。学生との質疑で「全員が幸福を感じられる世界の実現は難しい」の声には、「他人のために何か出来たら、自分の家族も幸せになる」と。 これ等の応えは仏教精神の「足るを知る」と共に「自利利他行」そのものなのではないかと思うのです。