圓應寺 住職法話
住職法話 第17回
日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】14~20
「高齢者の孤独死、自死(自殺)等」
この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から 「 Ⅴ 仏教に見る祈りと教え」まで、先月で3巡しました。今月から又、 「Ⅰ 日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活を見ていきたいと思います。今回は高齢者の孤独死、自死(自殺)等について述べます。
Ⅰ-14.高齢者の「孤独死」
高齢者孤独死の急増
東京23区 75歳以上の孤独死
07年 1,798人
(00年の倍以上)
少し古い統計になりますが、東京23区75歳以上の孤独死は、07年1,798人。この人数は00年の2倍以上となっており、年々増加の傾向です。
昭和初期の頃は、5~6人兄弟姉妹は当たり前、中には10人を越える兄弟姉妹も見受けられました。その時代には単身世帯、老夫婦のみの世帯は珍しく、「孤立死」が社会問題になるどころか「孤独死(孤立死)」という言葉自体がありませんでした。
Ⅰ-15.大都会に限らない「孤立死」
以上のような「孤立死」問題は大都市に限ったものではありません。私が住職である山形の当圓應寺に於いても、一昨年の平成22年、一人暮らしの方が死亡後4日経って発見される事態がはじめて発生しました。親戚はあるのですが、日常の付き合いはなく、ご近所の方4~5人の参加を得て葬儀を執り行いました。しかしこの方の場合は、長い間当寺の檀家として寺の運営経費である「護持費」をキチンと納入している方でした。同時に「自分が死んだら寺の『永代供養塔』に納骨して欲しい」との要望でした。したがって49日忌に当たる日にご近所の方に集まっていただき、納骨をすることが出来ました。
一方日本社会では年間3万人を越える引き取り手のないご遺体があります。この方々全員が、「一人暮らし」「孤立死」「納骨先無し」ではないと思いますが、圓應寺の事例は、ご本人が自身の最期をしっかり準備していたことから、寺で責任を持って葬儀・納骨をすることが出来ました。
Ⅰ-16.孤立死(孤独死)を身近に感じる-すすむ「無縁社会」
一人暮らしの 65%
夫婦二人暮らしの 44%
「身近な問題」と感じる
「身近な問題」と感じる理由
①「一人暮らし」 30%
②「近所付き合いが少ない」 26%
③「家族、親戚と付き合いがない」 11 %
出典:内閣府 平成21年度高齢者の地域におけるライフスタイルに関する調査結果(全体版)
内閣府が10年4月2日、「高齢者の地域におけるライフスタイルに関する調査」結果を発表しました。それによると、誰にも看取られることなく、亡くなった後に発見される「孤立死」を身近に感じるという高齢者が、42.9%という高い割合となっています。世帯類型別では、独り暮らしの65%が身近と回答、夫婦2人暮らしでも44%が身近だと感じています。又、大都市に住んでいる人ほど孤立死を心配する傾向が強く、東京23区と政令指定都市に住む人では47%に上りました。人口10万人未満の市では39%でした。
調査は09年10~11月、高齢者と地域社会とのつながりを把握する目的で初めて実施し、60歳以上の男女5千人が対象(有効回答率は70%)でした。孤立死を身近に感じる理由は「独り暮らし」(30%)が最も多く、「近所付き合いが少ない」(26%)、「家族、親せきと付き合いがない」(11%)と続きました。
又、内閣府が併せて発表した「高齢者の日常生活に関する意識調査」では、将来の日常生活に不安を感じる人が72%と、5年前の前回調査より4ポイント上昇しています。
Ⅰ-17.14年連続三万人超の自殺者
~ 10 年 自 殺 者 数 ~ 11.1.7 警察庁速報
10年 3万1560人
男子 70.3%
女子 29.7%
11年 14年連続三万人超
3万651人
厳しい社会情勢のなかで、自殺者が14年連続で3万人を越えています。男性がその7割を占めているのが大きな特徴ですが、近年は20~30代の若い世代の自殺者割合が増加傾向です。引きこもりのニートと言われる方が70万人、就職率、正規採用の低下、リストラ等々が大きく影響しいるのではないかと思われます。ところで、マスコミなどで良く見目にする交通事故死は、近年5千人を下回るようになりました。このことからも自殺者数がいかに多いが分かると思います。尚、今年12年の人数は、6月まで1万5千人を下回っており、何とか三万人台を割ることが期待されております。
Ⅰ-18.自殺者人数の国際比較
一方、世界との比較で見てみますと、OECD諸国の中で最近一位となった韓国(10万人当たり42.2)に次いで、日本は先進国中世界二位の異常に高い自殺率(24.4)となっています。世界全体でみても日本は、世界第5位の自殺率であり異常な値といわざるを得ません。
Ⅰ-19.自殺の原因・動機
自殺者の原因・動機
うつ病 | 6,490人 |
身体の病気 | 5,128人 |
多重債務 | 1,733人 |
その他負債 | 1,529人 |
統合失調症 | 1,368人 |
生活苦 | 1,289人 |
その他の精神疾患 | 1,189人 |
事業不振 | 1,139人 |
夫婦関係の不和 | 1,011人 |
仕事疲れ | 694人 |
それでは自殺に至る原因や動機はどのようなものでしょうか。警察庁の調べによると健康問題(含 うつ病)が第一、次いで経済・生活問題そして家庭問題と続きます。昔は「うつ病」とは言わず、「躁うつ病」とひとくくりの概念でしたが先に挙げた厳しい社会情勢の中で、「うつ病」はごくごく一般的な病気となってしまいました。不眠、食欲不振、意欲の減退等のサインに、家庭、職場、地域社会を含めてのより早い対応が必要とされています。又、治療中の方には「頑張れ頑張れ」等の“励まし”は禁句です。「治る」との意を込めて支えることが大切とされています。
Ⅰ-20.自殺を考えた経験
内閣府
「自殺対策に関する意識調査」12.5.2
成人男女23.4%
「自殺したいと思ったことがある」
初調査08年比4.3%増
20代が 28.4%で最多
内閣府
「不況に伴う職難や非正規雇用者の増加、希薄な人間関係が影響しているのでは」
12年5月の内閣府「自殺対策に関する意識調査」によりますと、成人男女の23.4%が「自殺したいと思ったことがある」と答えています。初回調査の08年比4.3%の増加となっています。しかも先にも述べましたが、20代28.4%と世代別では最多となっています。この状況に内閣府は「不況に伴う職難や非正規雇用者の増加、希薄な人間関係が影響しているのではないか」と述べています。この意味では、若い世代に対する就業対策、正規雇用対策などより一層の対策が求められています。
次回のこの項「日本社会の現状」では就業関係、特に若い世代を中心に述べます。