圓應寺 住職法話
住職法話 第182回
日本社会の現状
【福祉的社会学的考察】204〜208
「生活保護の給付額の引き下げ ②」
この項の「Ⅰ 日本社会の現状」から、「Ⅴ仏教に見る祈りと教え」まで、先月で36巡しました。今月から又、「Ⅰ日本社会の現状」に戻って現代社会の私達の生活」を見ていきます。前回のこの項では生活保護、その給付額の引き下げと最高裁判決、そとしてその後の国の対応等についての前半を述べました。今回はその後半です。
Ⅰー204 判決を受けての社説と解説 ①

社説です。2025年6月28日付朝日新聞の社説は、「生活保護判決利用者に謝罪と救済を」とのタイトルで、次のように述べました。以下はその概要です。
「最高裁は訴えを認め、減額決定を取り消した。行政に広い裁量権を認めて追認するのではなく、行政の合理性をきちんと審査する、本来の司法の役割を果たした判決と言える」とした上で、「国は原告だけでなく、200万人を越える利用者に対して謝罪し、速やかに救済を図らなくてはならない」と、謝罪と救済を明記しました。削減の背景として「当時の自民党が政権復帰する際、『給付水準の原則一割カット』を掲げたことがある。最高裁判決が指摘したように、生活保護費は年金と違って物価の変動を反映させるルールはない。08~11年の物価下落を反映させるとの理屈は、自民党の意向で厚労省が急きょ持ち出したに過ぎない」と指摘。更に社説は、生活保護の基本的役割を再認識すべく次のように述べたのです。「生活保護は憲法が保障する『健康で文化的な最低限度の生活』をまもるためにある。『あってはならない』貧困との境界線は、恣意的に上下させていいはずがない。~中略~生活保護は最後の安全網であり、『いのちのとりで』である」とした上で、最近のメディアと社会的風潮に次のように注意を促したのです。
「引き下げ前の『生活保護バッシング』の空気を醸成したのは、メディアの役割が大きかった。『働けるのに保護を受けていたと聞いた』など、街頭の声を集めて、裏取りもせずに流す報道が横行した。同じことを繰り返さぬよう、自戒することが求められる。~中略~『いのちのとりで』であるその利用をためらわせるような差別や偏見を社会から取り除けるか。一人ひとりが問われている」と。
Ⅰー205 判決を受けの社説と解説 ②

次に「解説」欄です。同年6月28日の山形新聞は、この判決に対して「解説」欄を設け、「過程軽視の行政に戒め」と題し、概ね次のように述べました。「最高裁は生活保護費の引き下げを違法と断じ、行政の裁量には一定の制約があることを強く判示した。~中略~命に直結する問題であり、その変更には慎重さが欠かせない。今回の引き下げは厚生労働省内の専門部会の審査を経ていないなど専門的知見を欠いており、最高裁はプロセスを軽視したと判断した。自民党が政権に復帰した選挙で、引き下げを公約したことが影響したとの見方もある。『科学的根拠より政治的思惑を優先した』(原告弁護団)とのそしりは的外れとは言えまい。政策決定の過程や手続きを重く見た今回の最高裁の指摘は、生活保護だけに当てはまる話ではない。国や自治体はあらゆる行為に対する重いメッセージと捉えるべきだ」と。
朝日新聞に比較して、柔らかい指摘のように思えます。特に利用者に対しての謝罪と補償が無いのが気になります。
Ⅰー206 判決後の国の対応と原告 ①

最高裁による違法判決は、2025年6月27日でしたが、その後の国と政治の対応はどうなったのでしょうか。同年7月12日付朝日新聞は、「生活保護減額被害回復なお不透明」「原告勝訴2週間『国はまず謝罪を』」と題して次のように報道しました。
「利用者ら原告が求めている国からの謝罪はなく、国は謝罪するのかどうかも明言していない。厚生労働省は、対応を検討する専門家らの会議をつくる方針を示したが、違法な減額の影響を受けた200万人を超す利用者の被害を回復する道筋は不透明なままだ。原告から失望と怒りの声があがっている」と。
更に同紙は原告の声として「『違法だと(判決で)はっきりしているのに、一言の謝罪も頂けないのは信じられない。一秒でも早く(生活保護)基準を元に戻して欲しい』」との思いを紹介し、「引き下げから10年以上が過ぎ、原告団によれば1千人以上いた原告団のうち、2割を超す232人が既に亡くなっている。利用者本人が亡くなれば、違法減額の被害は回復しようがない。高齢あるいは病を患う原告も多く、早期解決の願いは切実だ」と。
Ⅰー207 判決後の国の対応と原告 ②

違法判決を受けて福岡厚労大臣は(当時)、2025年7月1日の記者会見で謝罪の意向を問われたものの「司法の最終的な判断を真摯に受け止め、判決の趣旨および内容を十分審査の上、今後の対応を検討」と答えただけで、謝罪の言葉は無く、今後の対応を専門家らが審議する場を新たに設けることを表明したのでした。
これに対して原告側は、7月12日付朝日新聞によると専門家らが審議する場を新たに設けるという方針について「訴訟当事者である原告には事前に連絡も相談もなく公表されたものだった。原告側は『寝耳に水』だとして翌日に抗議声明を出した」と。更に「いのちのとりで裁判全国アクション共同代表の尾藤廣喜弁護士は『当事者を愚弄するものだ』と国の対応を強く批判。~中略~減額処分は最高裁で取り消されて違法状態にある。本来は即日にでも対応すべき」と。そうです。違法が決定したのに対して、謝罪一つ無く減額の補償もせず、新たに審議するというのはどういうことなのでしょうか。
その後、同年8月13日厚労省は対応を検討する専門委員会の初会合を開きましたが、いつまでに結論を出すのかは明確ではありません。そして同年8月29日、2回目の会合が開かれました。翌日30日の朝日新聞によると、「初めて出席した原告側は、引き下げ前の基準から見て減額された分の支払いを求めており、『手続きをやり直せば改めて引き下げてよい』という政府内の考え方は『根本的に誤っている』と批判した。さらに弁護団の小久保哲郎弁護士は、判決から2ヶ月経っても謝罪しない国の態度に触れ『専門委員会を利用して最高裁判決の意義を矮小化し、被害回復額をできる限り小さくしようとしているのではないかという不信感をぬぐえずにいる』と指摘。さらに同紙は、「厚労省内では、引き下げ自体は違法と認められていないとし、原告への支払いを決めるに当たって、引き下げの手続きをやり直すという考えがある。これに対し、弁護団の尾藤広喜弁護士は専門委で『国は、手続きをやり直せば、改めて引き下げてもよいとの主張をなしているようだが、根本的に間違っている』と批判した」と。
Ⅰー208 判決後の国の対応と原告 ③

その後厚労省は、今年(2026年)の2月20日保護費の追加支給を発表。その主な内容は次の通りです。
①対象は、原則として2013年8月から2018年9月までの間に生活保護を受給していた世帯
②追加額は、2013年に引き下げられた-4.78%と、新たに定めた-2.49%との差額(注、減額した全額を支給するものではなく、ほぼその半額)
③支給時期は3月1日以降、訴訟の原告から始まり、原告以外の方々には夏以降(支給事務を担う自治体の準備が整ってからになり、ばらつきが予想される)
以上が主な内容ですが、現在は生活保護を利用していない人については支給の申請や自治体の準備状況の関係で、かなりの遅れと混乱が予想されます。
これを受けて原告団は、再び提訴する方向で検討しているようです。何れにしても国のしっかりした正式な謝罪と全額補償を行うべきと思うのですが、如何でしょうか・・・。
