いかに生き、いかに死ぬか

圓應寺 住職法話

住職法話 第160回

日々の生活の質をいかに高めるか
【生活の質の考察】172~175

「私終いの極意」

 前回のこの項では、NKKラジオ深夜便で放送された高齢者の生き方について示唆に飛んだ三人の内容の第1回目として、精神科医の和田秀樹先生の「80歳の壁は乗り越えられるか」を紹介すると共に、私の考えを合わせて述べました。今回は第2回として、2022年1月に放送された(月刊誌「ラジオ深夜便」22年5月号にも掲載) 東京大学名誉教授の秋山弘子先生の「私終いの極意」を紹介し考えます。

Ⅳ-172  秋山先生 ①ーⅰ  ~ 元気で長生きだけでなく 社会に貢献することを目標に~

 人生100年の時代と言われる現代にあって、秋山先生は「健康寿命の大切さは勿論だが、その生き方として社会に貢献する『貢献寿命』を延ばすことが心豊かに生きる秘訣だ」と提唱してきました。「貢献寿命」は、これまで余り聴いたことがありませんが、先生は「健康寿命は日常生活に支障がない程度に元気でいる寿命。貢献寿命とはその次のステージを指し、『社会とつながり、何か役割を持って生きていく寿命』」ということです。さらに「元気で長生きする人が多くなったが、何かしたいが何をしていいか分からないという人も増えました。そこで次の目標は、社会で役割を持って生きる、収入を伴う仕事にかぎらず、ささいなことでも感謝される貢献寿命を延ばすことだと考えられるようになった」ということなのです。したがって「定年後は余生だと考えられていた時代もありましたが、今や定年はセカンドライフのスタートラインだと考える人が多く、人生がもう一つある」ということに。

Ⅳ-173  秋山先生 ①ーⅱ  ~ 元気で長生きだけでなく 社会に貢献することを目標に~

 これも山形県立中央病院時代のことになります。新病院新築・移転に当たり、当時としてはまだまだ珍しい院内ボランティアを導入しました。女性を中心に若い世代から定年退職された方々まで多くの方に活動いただきました。そのボランティアの方々が目を輝かせて嬉しい言葉を発する姿を今も忘れられません。ボランティアコーデネーターの私に「今日ね、歩くのがご不自由の方がいたので、車いすを奨め外来まで押してあげたの、そしたらにこにこして『有り難う!』と言われたの。アッ私も何かしら役割を果たしているだ!と嬉しくなって・・・」と。このような、チョットした感謝の言葉をいろんな場面で頂くのです。家庭にあってご家族から「有り難う」と言われることとひと味違った「有り難う」がそこにはあったのです。このように感謝されることによってご自身の存在を改めて確認できた多くの方々を見てきました。このように他人(ひと)のため、そして「社会とつながり、何か役割を持って生きていく貢献寿命」に繋がるのではないでしょうか。生き生きと活動するボランティアさんは、一時期新型コロナ禍による混乱はあったものの、現在も勿論活躍されています。

Ⅳ-174  秋山先生 ②ーⅰ  ~定年後の生き方~

 (定年後は)自分で設計して自分でかじ取りをしながら生きていく。その際、働く、学ぶ、遊ぶ、休むの四つをうまく組み合わせることが大切であることを提起。具体的には「70代前半までのうちは働く、学ぶに比重を置き、80代になったら遊ぶ、休むを増やすとか、自分に合わせて調整していきましょう。~中略~四つを柔軟に組み合わせて、無理のない範囲でやっていく。その中でおのずと社会とのつながり、役割を持って暮らすことができるのではと思っています」とのことです。さらに先生は「収入を伴わないボランティア活動、誰かの話を聞いてあげる、若い人に自分の経験からのアドバイス~中略~『ありがとう』と感謝されることは、たくさんある」と。
 そして最後に「人は加齢とともに失う機能もありますが、できることに目を向け、それを最大限に活用していくことは、新たなやりがいを見つけるチャレンジ。~中略~最後まで何らかの形で社会とつながり貢献することは可能です。もう本当にできなくなったとしても、誰かのために祈ってあげることはできる。そういうことも含めて貢献だと私は思っている」と結ばれました。

 住職の私としては「祈り」に触れられて、ある意味「目からうろこ」・・・?。

Ⅳ-175  秋山先生 ②ーⅱ  ~定年後の生き方~

 「人とのつながりが寿命を延ばす!」という新しい学説が登場し、2015年6月、NHK「マイあさラジオ」で放送されました。この常識を破る学説は、予防医学研究者・医学博士の石川善樹先生によるものです。 

 これまでの長生きの秘訣は、たばこを吸わない、食べ過ぎず多種類の食物を摂る、良き睡眠と適度な運動などです。先生はこの定説を踏まえた上で、「人とのつながりが寿命を延ばす!」という学説を打ち出したのです。その学説の基になったのは、千葉大学の65歳上を対象にした「どのような人が要介護になりやすいのか?」の調査です。それによると「要介護状態になりにくい人は、所属している組織の数が多いほどなりにくく、自治会や老人会などの組織に3つ以上所属していると介護になる確率が22%減る」との結果です。先生は「多くの組織に所属することにより外出の機会も増えて体を動かす機会も増えることが好結果を生む」とともに、更には「組織の中で役割を持つこと」がより好結果になるとの見解です。例えとして役員を担うことによって「組織の運営などの決定に関わり、生きがいや責任感が生まれ、物事を自分で判断する自律性が出る」ということです。具体的には「役員をすると男性5%、女性17%死亡率が減る」とのことです。

 定年退職し、「ああやっと自由の身になった・・・」として、毎日テレビの前でゴロゴロするのは最も悪い生活習慣なのかも知れません。家庭に閉じこもらず外に出て、いろんな組織・団体に入って人との繋がりれを持つ生き方こそ長寿の秘訣なのです。
(秋山先生の考えにつながる石川先生の学説です。)